激しめにやるくらいで、初めて人の心に響く
Q:先ほどの「心を動かすものづくり」のお話ですが、澤野さんはいかがでしょう? 今回の楽曲群ですと、静かな始まりからどんどん音が足されて多層的になっていくものなど、非常に感情を揺さぶられました。
澤野:音楽的な部分では、メロディやアレンジで起伏を付けるようにはしています。ずっと同じトーンで鳴り続けるとエモーショナルさや抑揚が弱く感じてしまうので、わざとらしく感じるくらいオーバーにやろうという意識はありますね。
演技にも通じるかもしれませんが、いまこうやって普通に会話しているものをそのまま映像に載せると、棒読みっぽく聞こえてしまうこともあると思うんです。そこに抑揚や緩急をつけることで、人の心に伝わる。音楽もそうで、「これ、クールだろ……?」ってスマートにやるよりも、やや大げさに「カッコいいでしょ!!」ってやるほうが人の感情に訴えかけるので、恥ずかしがらずにちゃんと激しくやるほうがいい。
『バブル』(C)2022「バブル」製作委員会
ただ、僕は根本的に「人の気持ちに届いてほしい」という想いで音楽を作っていますが、自分の力だけではどうにもならないポジションでもあります。音楽をお渡しして、それをどういう場所に当ててくれるか、どういうシーンで流れるか……。映像とリンクしたときにやっとお客さんが感情移入してくれるところがあるので、作品や監督の力のおかげで僕の音楽がよりエモーショナルに聴こえるようにしてもらっているとは常に感じます。
荒木:音が足されていくところでいうと、劇中でも重要なハミングを発注したときに、澤野さんの“「ドレミファソラシド♪」成長記録1週間”の動画が欲しいものに近かったんです。毎日楽器が重なっていっていずれオーケストラになっていく、まさに成長記録なのですが、プリミティブな音階がオーケストラに発展していくものを、『バブル』ではハミングでやってほしかった。
澤野:確かに、そうおっしゃっていましたね。
Q:ウタの成長過程にも通じますね。
荒木:おっしゃる通りです。