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『トロン』史上初の本格的CG映画、誕生への長い道のり (前編)

(c)Photofest / Getty Images

『トロン』史上初の本格的CG映画、誕生への長い道のり (前編)

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トリプルアイとジョン・ホイットニー・ジュニア



 マクバードから最初のスクリプトを受け取ったリズバーガーは、さらに手を加えて、『トロン』と題したシナリオを完成させる。だが、「これをいかにして映像化するのか」という大きな問題があった。しかし、まったく当てのないわけではなく、インフォメーション・インターナショナル社(Information International Inc.: 以下トリプルアイ)が解決してくれると読んでいた。


 このトリプルアイという会社は、マイクロフィルムレコーダーやフィルムスキャナー、印刷用合成システムを開発・販売している企業だった。元々社長がコンピューターアートに興味を持っており、『めまい』(58)のタイトルバックで知られるジョン・ホイットニー・シニアに協力を申し出る。そして、彼の『Matrix III』(72)や『Arabesque』(75)といった短編CG作品が、トリプルアイの設備を使って制作された。


『めまい』タイトルバック


 ある日、ホイットニー・シニアの経営するモーショングラフィックス社に、小説家のマイケル・クライトンが訪ねてくる。彼はMGMにオリジナル脚本『ウエストワールド』(73)を売り込み、自ら監督することを志願した。そして、劇中のコントロールルームのディスプレイにCG映像を表示したいと考え、『Matrix III』のフィルムを借りに来たのだった。


 そしてその際に、ある悩みを打ち明ける。この映画のストーリーは、「人間そっくりのロボットによるテーマパーク“デロス”において、ロボットたちが原因不明の故障を起こし、観客を殺し始める」というものだった。クライトンはこのロボットの主観ショットを、低解像度のCCDで撮影したようなモザイク効果で描写しようと考えるが、この時代では大変なことだった。クライトンは、NASA/JPL(ジェット推進研究所)に相談に行くが、映画全体の予算と制作期間を超える見積もりが提出され、困り果てていた。


 すると、ホイットニー・シニアの長男であるジョン・ホイットニー・ジュニアが、「自分にやらせてくれ」と言ってくる。彼はトリプルアイに掛け合い、深夜のみ設備を使用できる許可を得た。こうして1分間の映像が、4カ月かけて制作される。なんと1フレームのフィルムスキャンニングに、3時間を要したそうである。



ピクチャー/デザイン・グループ社の挫折



 ホイットニー・ジュニアは、これをきっかけにCGビジネスの構想を練り出した。パートナーに選んだのは、親友のゲーリー・ディモスである。彼は、カリフォルニア工科大学の学生時代に、ホイットニー・シニアが教える美術の講義を受けていた。そして、白黒のワイヤーフレームによるCGアニメを制作し、モーショングラフィックス社のオプチカルプリンターで着色して短編映画を作っていた。この時、ホイットニー家の人間と親しくなり、特にジュニアと意気投合することになった。


 その後ディモスは、ユタ大学内に設立されたエヴァンス&サザーランド(以下E&S)社で、実習生としてプログラマーを務めていた。だが1974年に、サザーランドがユタ大学とE&S社を辞めると言い出し、サンタモニカにピクチャー/デザイン・グループ(以下PDG)社を設立する。同社の目的は、ハリウッド映画にCGを導入するという野心的なもので、メンバーは社長がサザーランド、ホイットニー・ジュニアが営業とマーケティング、ディモスが開発を担当することになった。最初の大仕事は、天文学者のカール・セーガンが企画していた劇場長編映画『コスモス』のパイロット版(*5)制作だ。


 しかし、PDGに出資を約束していた人物が心臓発作で亡くなり、また折からのオイルショック不況も重なって、新たな投資家を見付けることができなかった。さらに劇場版『コスモス』も制作中止になり、PDGはわずか9ヶ月で倒産してしまう。サザーランドは、よほどショックだったのか、以降はCGに見向きもしなくなってしまった。


*5 この時、予定されていた3DCG映像は、銀河系や原子構造のモデルなどであった。『コスモス』は1980年にテレビシリーズ化される。その際に、DNAのリアリスティックな3DCG映像が登場するが、これはNASA/JPLのジェームズ・ブリンが手掛けたものだった。ブリンもまた、ユタ大学大学院のサザーランドの生徒で、在学中にトリプルアイのソフト開発に参加していた。その後、2014年に『コスモス: 時空と宇宙』が作られ、さらに2020年には『コスモス: いくつもの世界』が放送されている。この『コスモス:いくつもの世界』では、当初セーガンが構想していた木星の浮遊生物などが描かれている。


 実はホイットニー・ジュニアとディモスたちは、一度このセーガンの木星生物の映像化を行っている。彼らは1981年にトリプルアイから独立し、デジタル・プロダクションという会社を創業した。そして同社は、「国際科学技術博覧会」(科学万博‐つくば'85)の「日立グループ館」で上映された、『宇宙シミュレーション・トリップ』という3D映像を手掛けた。テーマは太陽系の各天体を旅するもので、劇中の木星大気中の描写がそれに当たる。



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