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『トロン』史上初の本格的CG映画、誕生への長い道のり (前編)

(c)Photofest / Getty Images

『トロン』史上初の本格的CG映画、誕生への長い道のり (前編)

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映画『未来世界』



 ホイットニー・ジュニアとディモスの2人は、PDGの失敗に懲りず、トリプルアイの役員会に話を持ち掛ける。そして社内に、CG映像制作を目的とするエンターテインメント・テクノロジーグループを1976年に結成し、本格的な3DCGのシステム開発が始まる。


 同時にホイットニー・ジュニアは営業を始め、クライトンが『ウエストワールド』の続編『未来世界』(76)を計画しているという情報を聞き出した。結局、監督はリチャード・T・ヘフロンが務めることとなり、クライトンがこの映画に直接関わることはなかったが、彼の推薦によってトリプルアイの参加が決定する。


『未来世界』予告


 今回は、ピーター・フォンダがデロスの秘密に迫るレポーターを演じ、「訪れた要人をロボットとすり替え、世界征服を企てる」という計画を暴き出すストーリーになった。トリプルアイが担当したのは、フォンダをコピーしてロボットが作られるシーンで、彼の頭部の3DCGが求められた。


 そこで、ユタ大学大学院を卒業したフランクリン・クロウの協力を得て、当時世界最高のリアリズムを誇る3DCGソフトを開発し、3012×2300画素の解像度でレンダリングする。このフォンダの頭部の映像は、一般人が目にする初めてのフォトリアルな人物のCG(*6)となった。


*6 この作品を映画館で観た高校生の筆者は、強烈な衝撃を受け、CGの道を志すきっかけとなった。



幻の『未知との遭遇』プロジェクト



 次にトリプルアイのスタッフが取り組んだ仕事は、スティーブン・スピルバーグ監督の『未知との遭遇』(77)である。この映画のクライマックスでは、巨大なUFOのマザーシップが登場するが、それに先立って輝く立方体「キュボイド」がたくさん飛来し、人間たちにメッセージを伝えに来るという場面が計画されていた。特撮監督のダグラス・トランブルは、「これはCGで表現するのが良い」と提案する。


 そしてトリプルアイと、MAGI(Mathematical Applications Group Inc.: 発音はマジャイ)の2社が、このシーンのコンペに参加した。トリプルアイの数学者マルコム・マクミランは、撮影済みのフィルムからカメラの動きを逆算し、CGの動きをシンクロさせるという、今日で言うモーショントラッキングやマッチムーブのためのプログラムを開発している。だがコンペの勝敗が決まる前に、このシーン自体が映画から削除されてしまった。


『未知との遭遇』予告


 『未知との遭遇』のキャンセルは痛手だったが、スタッフはその間もソフト開発を加速させて行き、一気に世界の頂点に辿り着いてしまった。すると、これまで使用していたDEC社のミニコンでは、計算速度が追い付かない。

 

そこで、スタンフォード人工知能研究所で眠っていた、Super Foonly F-1というプロトタイプのスーパーコンピューターを借り受けることにした。これは、DARPA(米国国防総省高等研究計画局)の支援を受けて開発されたマシンだったが、研究資金が打ち切られてから誰も使っていなかったのである。1日に1回はシステムダウンするという脆弱さで、メモリーは2MB、洗濯機ほどもあるハードディスクも330MBしかなかった。



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