2020.10.17
人気ジャンル「ダークファンタジー」の中核をなす作品
まずは簡単に、『鬼滅の刃』自体の概要を紹介しよう。本作は、「人を食う鬼と人間の闘いを描いたダークファンタジー」だ。
舞台は、大正時代の日本。炭売りの一家の長男・竈門炭治郎はある日、人を食う“鬼”に家族を皆殺しにされる。唯一生き残った妹の禰豆子も、鬼の血が体に入ったことで、鬼と化してしまう。炭治郎は、禰豆子を人間に戻すため、そして鬼たちの凶行を止めるために修業を積み、古来より鬼と戦い続ける組織「鬼殺隊」に入隊。鬼たちとの死闘に身を投じていく。
『鬼滅の刃』は第1話から、「一家惨殺」という相当ショッキングな幕開けを迎える。本作がダークファンタジーといわれる理由の一つでもあるが、全体を通して、鬼に命を踏みにじられる人々の描写が頻出する。そういった意味では、「人の死」が身近に描かれる、シビアな作品ともいえる。
『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』c)吾峠呼世晴/集英社・アニプレックス・ufotable
ちなみにこの「ダークファンタジー」というジャンル、近年の漫画・アニメ界では極めて人気を博しており、『進撃の巨人』や本作、『東京喰種トーキョーグール』『呪術廻戦』『チェンソーマン』『約束のネバーランド』等々、優れた作品が次々と発表されている。
たとえば『HUNTER×HUNTER』や『ジョジョの奇妙な冒険』、『鋼の錬金術師』等々、ダークな要素をはらんだ人気漫画はこれまでにもあったが、現在はこれらを読んで育ってきた世代たちの台頭もあり、ダークファンタジーが“異端”ではなく“主流”へと成長してきたといえるのではないか。
ただ、『鬼滅の刃』は大別するならダークファンタジーではあれど、中身は実にまっすぐな「友情・努力・勝利」の王道ジャンプ作品。残酷な描写が目を引きがちだが、これまで連綿と受け継がれてきたヒット漫画の“熱さ”をしっかりと備えている。つまり、歴代のジャンプ漫画への敬愛が如実に感じられる作品でもある。
その説明に移る前に、もう少し詳しく、『鬼滅の刃』の設定をご紹介しよう。
本作に登場する鬼たちはみな、驚異的な再生能力と戦闘力を誇り、中には「血鬼術」という特殊能力を有する者も。鬼を倒すには、太陽光を浴びせるか、特別な刀「日輪刀」で頸(くび)を斬るかのどちらかしかない。
そして、鬼殺隊は政府非公認の組織。そのため、政府からサポートを受けることができず、表立って帯刀もできない。また、隊士はそれぞれに「呼吸法」という剣術を体得し、自分の剣才にあった「型」を身に着けている。炭治郎であれば「水の呼吸」、同期の我妻善逸は「雷の呼吸」、嘴平伊之助は「獣の呼吸」を使う。
これらの基本設定は、実によく練られていると同時に、前述したように歴代のジャンプ漫画との浅からぬリンクを感じさせる。最も大きいのは、原作者の吾峠氏も多大な影響を受けたという『ジョジョの奇妙な冒険』だ。