1. CINEMORE(シネモア)
  2. 映画
  3. 劇場版「鬼滅の刃」無限列車編
  4. 『鬼滅の刃』に宿る名作漫画への敬愛と「人の弱さ、心の強さ」の美学『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』
『鬼滅の刃』に宿る名作漫画への敬愛と「人の弱さ、心の強さ」の美学『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』

(c)吾峠呼世晴/集英社・アニプレックス・ufotable

『鬼滅の刃』に宿る名作漫画への敬愛と「人の弱さ、心の強さ」の美学『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』

PAGES


圧倒的熱量と情報量で描かれるアニメ版



 アニメ版『鬼滅の刃』には、原作とも連携をとったいくつかの特徴がある。まずは、線の強弱だ。細かく観ていくと、例えば画面手前は線が太く、奥は細く……といったように、明確に差がつけられている。キメのシーンや戦闘シーンなど、要所でこの処理を施すことで、劇画的な迫力と勢いを生み出しているのだ。


 また、カメラと対象の距離感も興味深く、時には対象物が近すぎてピンボケ(もちろん、意図的に)を起こしていることも。これは極めて実写的な演出だが、遠近感や奥行きが加わることで没入感がぐっと高まる。カット割りに関しても、POV形式(主観映像)を取り入れたり、敵を斬る瞬間など3方向からのショットを続けざまに入れることで爽快感を出したり、画面が360度回転するアクションシーンなど、『Fate/stay night』シリーズなどで知られるアニメーション制作スタジオ「ufotable」の強いこだわりが、随所に見られる。


 ちなみに、この360度回転するアクションシーンの演出も実に外連味が効いており、対象との距離が一定で360度回転するのではなく、対象との距離が目まぐるしく変わりつつ、回転の軸も地面と平行ではなく、斜めになったり垂直になったりと、自在に動き回る。そのため、息もつかせぬド迫力の映像が出来上がるのだ。このダイナミックなカメラワークはアニメーションならではの強みであり、同時にここまでの熱量と情報量、美麗さは、ufotableだからこそなしえた“神業”といえるだろう。


 剣士が使う“型”によって渦潮や炎が立ち上る演出も、漫画的な太い輪郭の線画を、筆圧が伝わるように描写。さらに、『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』のメインの舞台は動き続ける汽車。車内や、激しく揺れる列車の上で戦うシーンがふんだんに盛り込まれており、大スクリーンで観賞するに値する“場”が用意されている。



 しかも、これも『鬼滅の刃』ならではの特徴といえるかもしれないが、善逸や煉獄といった剣士、或いは強者の鬼は、動きがとんでもなく速い。その高速移動を、余すところなく表現しているのだから恐れ入る。画面の奥から手前に超スピードで移動する描写、或いはあえてカメラを引いて列車の車両を外から映し、彼らが一瞬で移動する“距離”を観客にわかるように示すなど、工夫とアイデアが無数に詰め込まれている。


 また、衣装の処理も実は相当ハイレベル。炭治郎が羽織る市松模様の着物は、体勢や動きによって都度揺れる厄介なデザインだが、その部分も作画で1つひとつ描いているという。このように、気の遠くなるような作業を繰り返し繰り返し、手抜きせずに足し算していることで、アニメ版『鬼滅の刃』の観る者を引き込むような圧倒的な完成度が生まれているのだ。


 そのうえで、「喉が潰れるかと思った」というような、声優陣の身を削る熱演、人気ミュージシャンLiSAの主題歌、梶浦由記・椎名豪による音楽が加わり、存分に盛り上げている。ギャグパートなどの“休みどころ”はあれど、基本的にアニメ版『鬼滅の刃』は攻めて攻めるつくりになっており、観客を怒涛の熱量で呑み込んでいく。



 また、自然描写も見事で、TVアニメ版第1話の雪山のシーンなど、外崎春雄監督が自ら栃木県の雪山にロケハンに行ったそう。吾峠氏が使用している資料をアニメスタッフが共有し、またキャラクターデザインも原作者サイドとの密なコミュニケーションを図ったうえで細かく調整していったという。



 『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』は、木々の葉が風に揺れるカットから始まるが、本物と見まごうリアリティで、いきなり度肝を抜かれる。苔むした墓や、差し込む日差し、映し出される陰など、現地の空気やにおいまでもが、立ち上ってくるようだ。



PAGES

この記事をシェア

メールマガジン登録
  1. CINEMORE(シネモア)
  2. 映画
  3. 劇場版「鬼滅の刃」無限列車編
  4. 『鬼滅の刃』に宿る名作漫画への敬愛と「人の弱さ、心の強さ」の美学『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』