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『ミクロの決死圏』手塚漫画からシットコムまで、影響を与えた作品たち(後編)
『かわいい魔女ジニー』の影響説
しかし米国には、まったく別の説がある。シットコム『かわいい魔女ジニー』の、1965年11月13日に放送された第1シーズン・第9話「ジニー ハリウッドに行く」が、『ミクロの決死圏』のネタ元だという説である。
『かわいい魔女ジニー』のシリーズ設定は、「NASAの宇宙飛行士であるトニー(ラリー・ハグマン)が、不時着した南の島で謎の壺を拾う。そして、その中に封印されていた魔女のジニー(バーバラ・イーデン)を解き放ったことで、彼の住むフロリダまで付いて来てしまい、日々騒動を巻き起こす」というものだ。
『かわいい魔女ジニー』
「ジニー ハリウッドに行く」は、トニーが新作映画のテクニカルコンサルタントとして、ハリウッドのスタジオに招かれるという話である。その映画というのが「NASAの宇宙飛行士を針の先端ほどに縮小し、ソ連の宇宙飛行士の頸動脈に注射して脳内に潜入させ、国防に関する情報を盗み出す」(*2)というものだった。冷戦が関係している点で、より『ミクロの決死圏』に近いアイデアと言えるだろう。
ちなみに、『ミクロの決死圏』の特撮スーパーバイザーを担当したL・B・アボットによると、プロデューサーのソール・デイヴィッドからシナリオを渡されたのは、『電撃フリントGO!GO作戦』(1966年1月16日米国公開)を完成させた直後だったそうで、「ジニー ハリウッドに行く」の放送時期とも矛盾はない。
ただ面白いのは、『鉄腕アトム』にせよ『かわいい魔女ジニー』にせよ、どちらもNBCから放送されていたということだ。そこで、こんな仮説が考えられる。「『ミクロの決死圏』のプリプロダクション段階で、似たアイデアの先例がないかを調査中に『かわいい魔女ジニー』が見つかった。20世紀フォックスは、NBCに許諾を貰うために連絡を取る。すると、すでに「細菌部隊の巻」を観ていたジム・ドッドが類似性に気付き、手塚に連絡をした…」という流れである。事実を確かめることはできないが、可能性として十分あるのではないだろうか。
*2 ただ劇中、具体的にそういった映像は登場せず、イメージボードを前にプロデューサーが設定を語るだけである。ドラマ後半では、秘書として付いて来たジニーが自ら映画スターになろうとスクリーンテストを受けるが、精霊なのでフィルムに写らないという騒動へ主軸が移るため、人間縮小の話はどこかへ行ってしまう。