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『ミクロの決死圏』手塚漫画からシットコムまで、影響を与えた作品たち(後編)
内包される科学的矛盾
なお、この映画はハードSFではないから、科学的には矛盾点も多い。体内組織の構造などについては、ある程度正確さがあるものの、物理的にはかなり適当である。
まず、ミクロ化の原理の説明が一切ない。また物体が縮小された時、それに伴って質量も減るというのはどういうメカニズムなのか(劇中では「原子は縮小できない」と語っている)。さらに周囲の水分子による、ブラウン運動の影響も無視できないはずだ。それに、光の波長の違いによって、物の見え方も異なるに違いない。何より気になるのが分子間力である。つまり、液体の表面張力の描写を無視していることで、本来ならプロテウス号のエアロックにスムーズな注排水は不可能だろうし、ラストの涙の表現も不自然だ。
『ミクロの決死圏』(C)2017 Twentieth Century Fox Home Entertainment LLC. All Rights Reserved.
何より、筆者が子供のころから非常に疑問だったのが、「体内に残してきたプロテウス号の残骸(および捨ててきたレーザーガン)はどうなったか」である。普通に考えれば、タイムリミットが来ると同時に、ベネシュ博士(ジーン・デル・ヴァル)の頭の中で爆発的に拡がるはずだ。
こういった疑問は、作家・生化学者のアイザック・アシモフも同様だったようで、ノベライゼーションを担当するに当たって、可能な限り科学的な説明をしている。またプロテウス号の残骸と、スパイだったマイケル博士(ドナルド・プレザンス)の遺体も、隊員たちと同時に涙で体外に排泄されたと書かれた。