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『ミクロの決死圏』手塚漫画からシットコムまで、影響を与えた作品たち(後編)
検討され続けるリメイク計画
正式な『ミクロの決死圏』の続編計画も、何度も発表されている。まず、オリジナル版の原案・脚本家の1人だったジェローム・ビクスビイが、20ページのシノプシスを書いている。その内容は「アメリカとソ連の潜航艇が人体内で争い、そこに第三次世界大戦が絡んでくる」というものだったそうである。
結局、このプロットによる続編制作はスタートしなかったが、ノベライゼーションの出版権を持つウィリアム・モリス・エージェンシーが、1984年にアシモフにアプローチしてきた。彼は、「自分の作品を出版しているダプルデイ社の許可があれば書いてもいい」と答えるが、同社はOKを出さなかった。
その後、権利問題が複雑化し、SF・ファンタジー作家のフィリップ・ホセ・ファーマーが執筆することになるが、第一稿、第二稿ともボツにされてしまった。結局、ダブルデイが自社で出版できることを条件に、アシモフに執筆の許可を出す。
ファーマーの能力を高く買っているアシモフは、彼の原稿をいじるのは失礼だと判断し、まったく独自のアイデアで『ミクロの決死圏2‐目的地は脳』を、1987年に出版した。
旧作の設定や登場人物の使用は認められなかったため、タイトルこそパート2になっているが、まったく独自の作品となった。そのストーリーは「アメリカの脳科学者モリスンがソ連に拉致される。彼に与えられた任務は、実験中の事故で昏睡状態に陥った、ミクロ化技術の発明者である天才科学者シャピーロフの脳内に、4人のソ連人科学者と一緒に潜入するというものだった。シャピーロフは、莫大なエネルギーを必要とするミクロ化プロセスの、画期的な省力化のアイデアを持っていた。ソ連側は、モリスンのプログラムを用いることで、シャピーロフの脳細胞から有益な情報を読み取れるのではないか…と期待していた」というものである。
アシモフは、前作のノベライズでは描写しきれていなかった点の、科学考証を徹底させる。そして、何よりの問題だったミクロ化に関しては、シャピーロフに量子力学の基本定数であるプランク定数と、相対性理論における光速度との関連を見付けさせるという、大胆なSF設定を採用することで説明してみせた。
だが、『ミクロの決死圏2‐目的地は脳』の映画化計画は、まったく進まなかった。その原因は、小説としての評判がイマイチだったからかもしれない。文章だけからでは、登場人物たちがどういう状態になっているのか、医学的知識がないと世界観がイメージしにくいのだ。
例えば、映画の『ミクロの決死圏』における脳内の場面には、プロテウス号や隊員たちが行動できる、ニューロン間の空間がある。これは、よく模式図などで表現される方法だ。しかし実際の脳内には、ニューロンの間を埋めるグリア細胞や、コラーゲンによる支持構造が密集しており、広く見渡せる空間などない。
アシモフの続編小説は、医学的正確さを追及しすぎた結果、非常に息苦しく、パノラミックな雰囲気を失っていた。そういう意味で映画の『ミクロの決死圏』は、視覚的に程よいバランスで、映像設計されていたと考えられるのだ。
その後も、ジェームズ・キャメロン、ローランド・エメリッヒ、ウィル・スミス、ポール・グリーングラス、ギレルモ・デル・トロなど、様々な人物がリメイク計画を発表しているが、実現のニュースは聞こえてこない。
【参考文献】
映画宝庫編集室 著: 「季刊 映画宝庫6『SF少年の夢』1978年4月号」芳賀書店 (1978)
フレッド・ラッド著: 「アニメが「ANIME」になるまで‐『鉄腕アトム』、アメリカを行く」NTT出版 (2010)
STUDIO28 編: 「別冊映画秘宝 絶対必見! SF映画200」洋泉社 (2019)
アイザック・アシモフ 著: 「ハヤカワ文庫 SF23 ミクロの決死圏」早川書房 (1971)
アイザック・アシモフ 著: 「ミクロの決死圏2‐目的地は脳」早川書房 (1989)
1982年に日本初のCGプロダクションJCGLのディレクター。EXPO'90富士通パビリオンのIMAXドーム3D映像『ユニバース2~太陽の響~』のヘッドデザイナーなどを経てフリーの映像クリエーター。NHKスペシャル『生命・40億年はるかな旅』(94)でエミー賞受賞。最近作はNHKスペシャル『スペース・スペクタクル』(19)のストーリーボード。VFX、CG、3D映画、アートアニメ、展示映像などを専門とする映像ジャーナリストでもあり、映画雑誌、劇場パンフ、WEBなどに多数寄稿。デジタルハリウッド大学客員教授の他、東京藝大大学院アニメーション専攻、早稲田大理工学部、日本電子専門学校、女子美術大学短大などで非常勤講師。
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