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『ブレインストーム』VRを先取りしたダグラス・トランブルの野心作(前編)

(c)Photofest / Getty Images

『ブレインストーム』VRを先取りしたダグラス・トランブルの野心作(前編)

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ついに動き出した『ブレインストーム』



 そしてトランブルは、当時MGMの社長兼CEOの(ハリウッドの闇を象徴するような人物でもある)デイヴィッド・ベゲルマン(*7)に接触し、『ブレインストーム』の企画を売り込む。ベゲルマンはコロンビア・ピクチャーズ時代に、『未知との遭遇』を手掛けていた人物だった。MGMはこの企画に乗り気だったが、やはりショースキャンの導入は拒否した。


 トランブルは仕方なく、通常シーンとリアリティレコーダー・シーンの差をフレーム数ではなく、画面サイズで表現する方法に切り換えた。つまり通常シーンは、35mm 4Pのパナフレックスで撮影、ヨーロッパビスタ(1.66:1)(*8)で映写する。そしてリアリティレコーダーの場面のみ、65mm 5Pのスーパーパナビジョン70で撮影し、2.21:1のワイドスクリーンで上映することにしたのだ。65mmの機材は、再びパラマウントからFGC時代のものを借り受け、リアリティレコーダー・シーンの差別化を明確にすべく、Omnivision(*9)の魚眼レンズで撮影することにした。


 撮影監督には、リチャード・ユーリシッチ(製作助手も兼任)を選ぶ。彼は撮影監督こそ未経験だったが、撮影助手としては『ブレイクアウト』(75)や『ハーパー探偵シリーズ/新・動く標的』(75)、それにいくつかのCMを手掛けた実績があり、MGMも了承した。


 トランブルはプロデューサーと監督に専念するため、VFXスーパーバイザーにはEEG社員からアリソン・イェルザ(*10)を抜擢した。彼女は映画業界での経験は浅く、主に画家や舞台美術の分野で活躍してきた人物だった。トランブルは、彼女が『スター・トレック』のヴィジャーの周りを囲む青い雲状物体のシーンを担当した際、抽象的な概念を理路整然と視覚化させた手腕に感心していたのだ。


*7 ベゲルマンは、コロンビア・ピクチャーズで社長を務めていた77年に、小切手偽造・業務上横領が発覚して78年にスタジオから追放された(ただし、彼の不正を告発したクリフ・ロバートソンはハリウッドから干され、ようやく復帰できたのが『ブレインストーム』だった)。80年にMGMの社長兼CEOに就任するが、ヒット作を生み出せず、MGMは85年にターナーブロードキャスティングシステムに売却されている。ベゲルマンは、95年にピストル自殺した。


*8 35mm 4Pのフィルムを非圧縮で撮影し、プリント時に上下をクロップして横長にする方式。スタンダード(1.375:1)と、日本で広く使われるアメリカンビスタ(1.85:1)の中間のアスペクト比になる。ILMやダイクストラのアポジー社が用いた、35mm 8Pのフィルムを用いるビスタビジョンとは異なる。元々ビスタビジョンは、1954年にパラマウントがシネマスコープに対抗するために、35mm 8Pフィルムを横走りで撮影するシステムとして開発した(初期のILMは、パラマウントの放出品を中古で購入していた)。上映に関しては、最初は同じく35mm 8Pフィルムを横走りで映写する方式が考えられ、この時にアスペクト比が1.5:1、1.66:1、1.85:1、2:1から選択可能だった。だが専用の映写機を必要とするため、一般劇場にはまったく普及していない。結局、ヒッチコック映画などに見られるビスタビジョン・ロゴの付いた作品は、バラモーフ(Varamorph)と呼ばれるアナモフィックレンズで35mm 4Pフィルムに圧縮してプリントするか、もしくは非圧縮で4Pに縮小プリントし、上下を黒くマスキングして映写する方法のどちらかが採用された。アメリカンビスタやヨーロッパビスタは、後者の名残りである。


*9 Omnivisionとは、カナダのIMAX社が73年に開発したOMNIMAX(80年代末からはIMAX Domeと名称変更された)用レンズのこと。70mm 15Pフィルム式IMAXが巨大な平面スクリーンに映写するのに対し、OMNIMAX(IMAX Dome)はプラネタリウム用のドームスクリーンに魚眼レンズで投影される。


*10 イェルザがVFXスーパーバイザーを務めた映画はこれ1本だけで、以後はもっぱらマットペインターとして活躍している。



後編に続く



【参考文献】

Cinefex No.14, October 1983

Cinefex No.9, July 1982

Bob Fischer and Marji Rhea, “Interview: Doug Trumbull and Richard Yuricich,. ASC,” American Cinematographer (Aug. 1994)

"DOUGLAS TRUMBULL, VES: Advancing New Technologies for the Future of Film". VFX Voice Magazine. June 25, 2018



文:大口孝之(おおぐち たかゆき)

1982年に日本初のCGプロダクションJCGLのディレクター。EXPO'90富士通パビリオンのIMAXドーム3D映像『ユニバース2~太陽の響~』のヘッドデザイナーなどを経てフリーの映像クリエーター。NHKスペシャル『生命・40億年はるかな旅』(94)でエミー賞受賞。VFX、CG、3D映画、アートアニメ、展示映像などを専門とする映像ジャーナリストでもあり、映画雑誌、劇場パンフ、WEBなどに多数寄稿。デジタルハリウッド大学客員教授の他、早稲田大理工学部、女子美術大学専攻科、東京藝大大学院アニメーション専攻、日本電子専門学校などで非常勤講師。



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