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『ブレインストーム』VRを先取りしたダグラス・トランブルの野心作(前編)

(c)Photofest / Getty Images

『ブレインストーム』VRを先取りしたダグラス・トランブルの野心作(前編)

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原案を書いたブルース・ジョエル・ルービン



 本作の原案を書いたブルース・ジョエル・ルービンは、60年代にニューヨーク大学の映画学科で学んだ。同級生にはマーティン・スコセッシもいたそうだ。ルービンの最初の脚本は、ブライアン・デ・パルマによって、短編『Jennifer』(64)として映画化されている。


 卒業後は、NBCでニュース番組のフィルム編集助手を務めていた。だが当時はヒッピー文化が盛んなころであり、ルービンもLSD体験をきっかけに、精神世界や東洋思想にのめり込んでいく。そしてアジアを中心に世界各地を旅し、ヒンドゥー教やシク教、仏教などの寺院に滞在した。


 こうして2年近くに渡る精神的探求からニューヨークに戻り、再び映画界で録音、編集、撮影助手、助監督など様々な仕事に就く。この時期にルービンが参加した作品には、デ・パルマ監督の『ロバート・デ・ニーロのブルーマンハッタン BLUE MANHATTAN I・哀愁の摩天楼』(70)の助監督などがある。こうした仕事を続けながら、いくつかのオリジナル脚本を書いてチャンスを狙っていた。


 ルービンは73年、『The George Dunlap Tape』と題した自分の脚本で、監督デビューすることになる。そのストーリーは「科学者のジョージ・ダンラップは、画期的な装置を発明する。それは頭部に装着することで、自分の経験や知覚すべてを記録し、不特定多数の人間に直接再生できるマシンだった。映画はダンラップの死で終わるが、カメラが引いていくと、それがビデオモニターであることが分かり、画面に「テープ巻き戻し」の表示が点滅する。カメラはさらに引いて行き、果てしなく並んだモニターを映し出す。実はこの場所は、ダンラップが死んでから数百万年が経過した未来であり、テープに記録された彼の生涯の感覚を繰り返し再生し続けていた…」というものだった。


 ルービンは製作費40万ドルを調達し、撮影地はインディアナ州立大学をメインとした、インディアナ州内に決める。そしてローリンダ・バレットや、ジャクリーン・ブルックスらをキャスティングし、プロップも完成。さらに、アブストラクト(抽象)フィルム界の巨人ジョーダン・ベルソン(https://cinemore.jp/jp/erudition/1316/article_1318_p1.html#a1318_p1_1)や、3DCGのパイオニアであるジョン・ホイットニー・ジュニア、後に『アルタード・ステーツ/未知への挑戦』(80)にも参加する、実験映画作家のスコット・バートレットらによるVFXチームも結成した。


 だがクランクイン直前になって、メインの出資者が資金を引き揚げてしまう。理由は不明だが、ルービンに長編映画監督の経験がなかったことが問題視された可能性はある。また彼はアメリカ西海岸を嫌悪しており、いくらデ・パルマが説得しても、なかなかロサンゼルスに引っ越さなかったことも影響しているかもしれない。(*5)


*5 ルービンは84年にロサンゼルスへ移り住み、『ゴースト/ニューヨークの幻』(90)、『ジェイコブス・ラダー』(90)、『マイ・ライフ』(93)など、もっぱら人の死をテーマにした作品を手掛けていく。





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