VFX
本作のVFXは比較的地味で、ソ連の石油コンビナートの爆破はセリフで語られるだけだ。デスバレーの核爆発シーンも、52年に実施されたアイビー・マイク実験の記録映像を使用しており、いわゆるミニチュアを用いた特撮ショットは存在しない。
その代わりに本作を支えているのが、アルバート・ホイットロックによるマットペインティングである。『鳥』(63)、『マーニー』(64)、『引き裂かれたカーテン』(66)といったヒッチコック監督作品や、『大地震』(74)、『ヒンデンブルグ』(75)などで活躍した伝説的マットアーティストだ。
本作で彼が手掛けたのは、コロッサス本体、外部と遮断される堀、物々しい出入り口、ウクライナのミサイル基地、遠くのコロッサス施設を見下ろす展望台(観光地化していた)などである。とりわけ驚くべきは、コロッサスの起動シーンだ。果てしなく並ぶ筐体に奥から照明が点灯していく様子が、実写素材に同期したアニメーションで表現されている。
通常なら複雑なオプチカル合成を必要とする作業だが、ホイットロックはデュープによる粒子の荒れを嫌い、これをオリジナルネガによる“生合成”で実現させてしまった。失敗すれば最初から撮り直しになる危険な作業で、普通なら誰もやりたがらない。
具体的には、実写撮影時に画面の一部を黒く覆い、ネガに未露光の箇所を作る。そしてライトが点灯するタイミングをストップウォッチで計測し、テストピース用に尺を長めに撮影しておく。スタジオに戻ると、未露光部分用の絵を油彩でガラス板へ描き込み、実写と絵の色調・露出を完全に一致させるため、少しずつテスト合成を繰り返す。
通常の生合成ならこれで完了だが、今回は筐体の起動ランプや廊下の照明といったアニメーション作業も必要となる。ホイットロックによれば、ライト点灯のタイミングが8フレームずれているらしいのだが、言われてもまったく分からない。彼が「生涯で最も複雑なマットペインティング・ショットだ」と語ったのも納得できる。