© 2020 The British Film Institute, British Broadcasting Corporation & Fossil Films Limited
『アンモナイトの目覚め』フランシス・リー監督 人は人との出会いでこんなにも変われる【Director’s Interview Vol.118】
長編初監督・脚本を務めた『ゴッズ・オウン・カントリー』(17)が、サンダンス映画祭、英国インディペンデント映画賞、ベルリン映画祭、英国アカデミー賞などで数々の賞に輝き、鮮烈なデビューを飾ったフランシス・リー監督。長編2作目となる本作『アンモナイトの目覚め』では、ケイト・ウインスレットとシアーシャ・ローナンという2大女優を迎え、孤独の中に埋もれた自分を発掘していく女たちの物語を、19世紀に実在した古生物学者メアリー・アニングにインスパイアされながら、繊細かつ大胆に描き上げた。またもや賞賛を集める作品を手がけたフランシス・リー監督に話を伺った。
Index
- 逆境に負けない人に強く惹かれる
- “あったかもしれない”瞬間を切り取った物語
- 違いを楽しみ称賛する物語を作りたい
- ケイト・ウインスレットとシアーシャ・ローナン
- スタントマンもボディダブルも使わない
- 人は人との出会いでこんなにも変われる
逆境に負けない人に強く惹かれる
Q:なぜ、実在の人物であるメアリー・アニングを取り上げたのでしょうか? 本作誕生のきっかけを教えてください。
フランシス:メアリー・アニングを知ったのはプレゼント用に化石を探していた時でした。ネット検索で何度も名前が出てくるので、興味本位で調べ始めたんです。資料を読むと彼女は優秀な科学者だったことが分かりました。
メアリーは非常に貧しい家の生まれで、両親は10人の子供を持ちましたが、そのうち成人できたのは彼女を含めて2人だけです。彼女は10歳で父親を亡くし、そのまま一家の大黒柱になりました。家計を支えるため観光客に化石を売り始め、13歳で世界初のイクチオサウルスの全身化石を発掘したんです。
探求心が旺盛なメアリーは独学で学びながら、さらに多くの化石を発見していきました。しかし、労働者階級の女性が男性優位の階級社会で認められることはなかった。彼女は、発見した化石を世界中の主要な博物館や化石収集家に売っていきましたが、世に出た化石に彼女の名前はありませんでした。
『アンモナイトの目覚め』© 2020 The British Film Institute, British Broadcasting Corporation & Fossil Films Limited
私が感銘を受けたのは、彼女の粘り強さと厳しい世界を生き抜いた能力です。私は、逆境に負けない人に強く惹かれます。そして周りの環境にも惹かれました。メアリーが暮らしていたライム・レジスの海岸線は実にすばらしい。キャラクターがいる風景がその人物を形作っていくんです。
私は、生涯認められることのなかったこの女性の人生を描きたいと思いました。一方で私は、人の感情や関係に強いこだわりもある。だから彼女にふさわしい関係を描き出したかったんです。
Q:前作『ゴッズ・オウン・カントリー』を踏まえて、今回は女性の物語を選んだのですか?
フランシス:確かに『ゴッズ・オウン・カントリー』はヨークシャーの牧場で働く2人の青年の物語でした。次は女性目線の作品と決めていたわけではないけれど、違う感情の広がりを持ったラブストーリーを探求したいと思っていたんです。本作は、女性キャラクターに焦点を絞ることで、前作とはまた違った感情のやり取りを描けたと思います。