『戦場のメリークリスマス』(4K修復版)『愛のコリーダ』(修復版)の大規模上映を実現 大島渚プロダクション・大島新監督インタビュー【CINEMORE ACADEMY Vol.16】
大島渚のデビュー作に見る作家性
Q:「一作目には、その作家の全てがある」と言われます。大島監督のデビュー作『愛と希望の街』(59)を見て思うのは、「人間は基本的に分かり合えない。でもなんとか分かり合おうとして、もがき苦しむ」。大島監督はその姿をずっと描いてきたんじゃないかと。
『愛と希望の街』は富裕層の少女と、貧困家庭の少年の交流と断絶を描いたお話ですが、『戦場のメリークリスマス』でも敵同士の男たちは基本的に分かり合えない。だけどその中で、関係性を築こうともがく。『愛のコリーダ』では、定と吉蔵は分かり合えないからこそ、セックスをし続けるしかなかったのではないか、と感じました。如何ですか?
大島:なるほど、と思いますね。デビュー作の『愛と希望の街』は、意外とオーソドックスな作りなんですが、私の母、小山明子は一番好きな大島作品らしいんです。もしかしたら、それ以後の大島映画よりも、割と作りが端正で、分かりやすい、ということなのかもしれないですが。
大島渚プロダクション 大島新監督
Q:最後に鳩を撃ち殺してしまう演出に大島監督を感じますが、当時の松竹はホームドラマがメインですから、さすがにあのラストは嫌がられただろうと思います。
大島:最初のタイトルは『鳩を売る少年』だったですよね。でもそれじゃ駄目って言われて、次が『怒りの街』。それでも駄目と言われて仕方なく出した代案が『愛と怒りの街』。それでギリギリ妥協したと思ったら、台本のタイトルが『愛と希望の街』で印刷されてきた。酷い話なんですけどね。愛も希望もないじゃないかっていう(笑)
大島渚はマイホームパパだった!?
Q:新さんは兄・武さんとの共著、「君たちはなぜ、怒らないのか? 父・大島渚と50の言葉」(日本経済新聞出版社)で父としての大島渚監督の思い出をつづっています。それを読むと、大島監督は家では意外と保守的なマイホームパパだったそうで、衝撃を受けました(笑)。
大島:本当に不思議な人ですよね。外で見せる顔と、全く違う。だから父と母の結婚式の時に先輩の大庭秀雄監督から「大島君は、映画はヌーベルバーグでも、家庭は大船調(松竹メロドラマ)で」という風に言われたらしいんです。割とそれを地でいっていたところがありましたね。
子供に対しても過保護でしたし。「学歴社会はけしからん」なんてテレビでは言ってましたけど、僕らには「いい大学に入ってほしい」、「いい会社に入って欲しい」と思っていた。僕のこともフジテレビで出世して欲しかったじゃないですかね。
Q:新さんは大島監督と似た道を辿っているように見えますね。フジテレビに入社されても、ドキュメンタリーを作り続けたくてフリーになり、そして会社を作られた。
大島:そうですね、はからずも似てしまっていますね。あと映像をやっているから、映像作家として父と比較をされることもあるんです。でも僕としては大島渚に関しては、ちょっと異次元と言うか、自分と父を比べて、どうこうというのは全く考えないですね。