『戦場のメリークリスマス』(4K修復版)『愛のコリーダ』(修復版)の大規模上映を実現 大島渚プロダクション・大島新監督インタビュー【CINEMORE ACADEMY Vol.16】
大島渚作品に伏流するドキュメンタリー性
Q:大島監督は「忘れられた皇軍」などのテレビドキュメンタリーも撮っています。
大島:同世代で言うと土本典昭さんや小川紳介さんのお仕事を、とても尊敬していました。「ドキュメンタリーというのは、対象への強い興味関心と、それを長く継続することが大事なんだ」ということを言っていました。父が撮ったドキュメンタリーは取材も短期間のものが多い。その言葉はつまり土本さんや小川さんのお仕事を指していたと思うんです。
だから僕も、取材に17年かかった『なぜ君は総理大臣になれないのか』で、ようやくそれが出来たかなっていう感じがしています。
Q:大島監督の作品世界には、ドキュメンタリー的な匂いを感じます。次に何が起こるのかドキドキする、「不穏」な感じというんでしょうか。
大島:作られたものであるにも関わらず、この後どうなるんだ、みたいな感じはあるかもしれないですね。
父は、映画人である前に、言論人だったと思います。黒澤さんや、小津さんはやっぱり映画人。でも父は絵描きじゃないし、「本籍:映画」ではないという感じがしてしまう。それが要因で、異質な手触りの映画になってしまうのかもしれませんね。
『戦場のメリークリスマス』(4K修復版)©大島渚プロダクション
Q:大島監督は、いわゆる「映画監督」と言われる人たちとは、全く違うスタンスの方だったのではないでしょうか。例えば、「そんな演技じゃダメだ」とか、そういうことを現場で粘る、というよりは、違う視点で作られていた気がします。
大島:多分、そうだと思います。『戦メリ』なんて、「こんな変な芝居がOK出るなんて」と思ってしまう。黒澤明監督だったら絶対OK出さないでしょ?と。そういうのが山ほどある。
自分のイメージとか、考えている世界に究極に近づけたいという監督が、例えば黒澤明さんや、スタンリー・キューブリックだとすれば、大島渚はそういうタイプではない。
作品の大きな幹のようなものはしっかりあるけど、枝葉の部分は成り行きに任せる。その時の突発性、ドキュメンタリー性と言ってもいいかもしれませんが、そういうのを取り込んで、楽しんでいく。そういうところがあった気がしますね。
『戦場のメリークリスマス 4K修復版』を今すぐ予約する↓
『愛のコリーダ 修復版』を今すぐ予約する↓
大島新(ドキュメンタリー監督)
1969年神奈川県藤沢市生まれ。1995年早稲田大学卒業後、フジテレビ入社。『NONFIX』『ザ・ノンフィクション』などドキュメンタリー番組のディレクターを務める。1999年フジテレビを退社、以後フリーに。MBS『情熱大陸』、NHK『課外授業ようこそ先輩』などテレビ番組多数。
2007年、ドキュメンタリー映画『シアトリカル 唐十郎と劇団唐組の記録』を監督。2009年、映像製作会社ネツゲンを設立。2016年、映画『園子温という生きもの』を監督。プロデュース作品に『ぼけますから、よろしくお願いします。』(2018/文化庁映画賞 文化・記録映画大賞)など。最新監督作『なぜ君は総理大臣になれないのか』(2020)が、第94回キネマ旬報ベスト・テン文化映画第1位に。
取材・文:稲垣哲也
TVディレクター。マンガや映画のクリエイターの妄執を描くドキュメンタリー企画の実現が個人的テーマ。過去に演出した番組には『劇画ゴッドファーザー マンガに革命を起こした男』(WOWOW)『たけし誕生 オイラの師匠と浅草』(NHK)『師弟物語~人生を変えた出会い~【田中将大×野村克也】』(NHK BSプレミアム)。
『戦場のメリークリスマス 4K修復版』
ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館ほか全国順次公開中
©大島渚プロダクション
『愛のコリーダ 修復版』
ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館ほか全国順次公開中
©大島渚プロダクション