スティーヴン・スピルバーグ監督作品 1990年代
14.『フック』（91）144分
中年ピーター・パンが仇敵フック船長と再び剣を交える、ファンタジー・コメディ。ピーター・パン・シンドロームと揶揄され、子供映画しか作れないと批判を浴び続けてきたスピルバーグが、自分の中に潜むピーター・パンから決別するために作った通過儀礼的作品。ネバーランドから家族の待つ現実世界に帰っていくことで、スピルバーグ自身も大人になることを選択した。以降彼は、“白スピルバーグ”から“黒スピルバーグ”へと変貌を遂げ、より禍々しさを全開させていくことになる。
15.『ジュラシック・パーク』（93）127分
グラント博士たちが口をあんぐりさせてブラキオサウルスを見上げたように、我々観客も口をあんぐりさせてスクリーンに映し出された恐竜たちを凝視した。これからの特撮はCGがメインストリームになることを高らかに宣言した、映画史的転換点。そのあまりの出来栄えに、ストップモーション・アニメーターのフィル・ティペットが「I've just become extinct（私の仕事は絶滅だ）」という言葉を漏らし、それが本編でもセリフとして使われたことは有名。
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16.『シンドラーのリスト』（93）195分
ナチスドイツによるホロコーストを真正面から描くことで、ユダヤ人というアイデンティティーにスピルバーグが正対した歴史劇。ポーランド生まれの名撮影監督ヤヌス・カミンスキーと初めてタッグを組み、これまでになかったドキュメンタルなタッチを獲得している。モノクロームの映像に浮かび上がる赤いコートの少女のショットは、本作のみならず、フィルモグラフィ全体の中でもハイライトの一つ。アカデミー賞では作品賞、監督賞を含む7部門を受賞して、名実ともに巨匠の地位を確立した。
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17.『ロスト・ワールド/ジュラシック・パーク』（97）129分
スピルバーグのフィルモグラフィで一貫して扱われている<捨て子>というテーマを、人間ではなく恐竜に仮託してしまった、『ジュラシック・パーク』シリーズ第二弾。前半ではイスラ・ソルナ島を舞台に、コナン・ドイルの『ロスト・ワールド（失われた世界）』的な冒険が描かれ、後半になるとさらにギアが加速して、ティラノサウルスがサンディエゴの街で暴れまくる。ハリウッド超大作なのに、B級映画のようなデタラメさが逆に魅力的。ちなみに、黒沢清監督が一番好きなスピルバーグ映画がコレだそうです。
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18.『アミスタッド』（97）154分
アフリカから拉致された黒人奴隷たちが、反乱を起こして船を乗っ取ったアミスタッド事件。生き残るために白人の船員を殺害した彼らは裁かれるべきか、否か。モーガン・フリーマン、アンソニー・ホプキンス、マシュー・マコノヒーという名優たちを招聘、観客の倫理観・道徳観を揺さぶる歴史ドラマにして、法廷を舞台にしたディスカッション・ドラマ。鎖に繋がれた黒人奴隷たちが、次々と海の中に投棄されていく禍々しいショットに息をのむ。
19.『プライベート・ライアン』（98）170分
「ママ、ママ」という絶叫。ちぎれた腕を探す兵士。レンズに付着する肉片と血糊、そして機銃掃射や迫撃砲の激しい爆音。スピルバーグは冷徹な視点で、ノルマンディー上陸作戦の地獄絵図をスクリーンに焼き付ける。そして、それを見つめる観客も逃げ場のないオハマ・ビーチへと放り込まれていく。もはやこれは戦争映画ではなく、戦場映画だ。『シンドラーのリスト』に続き、スピルバーグは二度目のアカデミー監督賞を受賞。
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