スティーヴン・スピルバーグ監督作品 2010年代
27.『タンタンの冒険/ユニコーン号の秘密』(11)107分
ピーター・ジャクソンとの共同制作で、世界的バンド・デシネ『タンタンの冒険』を3D映画化。ユニコーン号の財宝を巡る少年記者タンタンと愛犬スノーウィの冒険が、モーションキャプチャを活用したフルCGアニメーションで描かれる。最大の見どころは、サイドカーで羊皮紙を追いかけるカーチェイス。ようやく羊皮紙を取り返したと思ったらハヤブサに奪われたり、サイドカーがバラバラになって単車になったり、ターザンのようにワイヤーを滑り落ちたりと、およそ3分間いっさいカットを割らないノンストップ・アクションが続く。シネアストとしての面目躍如。
28.『戦火の馬』(11)146分
『太陽の帝国』、『シンドラーのリスト』、『プライベート・ライアン』など、第二次世界大戦に取り憑かれてきたスピルバーグにとって、初めて第一次世界大戦を舞台とした作品。戦火に巻き込まれたヨーロッパを舞台に、少年アルバートと愛馬ジョーイの数奇な運命が描かれる。何となく“感動映画”にカテゴライズされているが、やっぱり禍々しさは全開。決定的瞬間は周到にカメラからフレームアウトさせたり、ほのかに暗示させるのみにとどめているが、夥しい数の“死”がしっかりと刻印されている。
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29.『リンカーン』(12)150分
エイブラハム・リンカーンという<史上最高の大統領>の史実を描くにあたって、奴隷解放宣言までの歩みではなく、南北戦争での勝利でもなく、ワシントンD.C.での暗殺事件でもなく、アメリカ合衆国憲法修正第13条の採決という、地味すぎる題材をピックアップしたのが脚本上の勝利。権謀術数が渦巻く政治の世界で、理想よりも妥協の道を選択する生々しさに、映画作家スピルバーグの成熟を感じる。名優ダニエル・デイ=ルイスとの初タッグという意味でも見逃せない一作。
30.『ブリッジ・オブ・スパイ』(15)141分
米ソ冷戦下での捕虜交換という実話を映像化。コーエン兄弟がシナリオを手がけていることで、いかにもスピルバーグらしい王道たる演出の端々に、東ドイツの胡散臭い偽家族のような毒っ気のあるユーモアが紛れ込むのが面白い。『ミュンヘン』でイスラエルを中立的な立場で描いたスピルバーグは、この作品ではさらに踏み込んで、敵国ソ連スパイのルドルフ・アベルを“不屈の男”として描いている。コスモポリタンとしての姿勢をより鮮明化させた作品と言えるだろう。
31.『BFG: ビッグ・フレンドリー・ジャイアント』(16)117分
『E.T.』の脚本家メリッサ・マシスンと再びタッグを組んで、少女と心優しき巨人との交流を描くファンタジー巨編。正直言って、彼の偉大なフィルモグラフィを見渡したときに、あまり語られることのない作品であることは確か。『フック』で己の中に潜むピーター・パンと決別していたスピルバーグは、ファンタジーを描くには大人になりすぎていたのかも。前作『ブリッジ・オブ・スパイ』に続き、マーク・ライランスが巨人役で出演。スピルバーグのアバターとしての地位を確立する。
32.『ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書』(17)116分
ドナルド・トランプが大統領に就任してから、わずか45日後に製作を発表。『レディ・プレイヤー1』のポストプロダクションと並行しながら撮影を敢行し、1年も待たずに公開に漕ぎ着けてしまった超早撮り映画。それでいて、メリル・ストリープとトム・ハンクスを主演に迎えた堂々たる社会派ドラマに仕上がっているのだから、その手腕には恐れ入るばかり。アメリカ国防総省の最高機密文書にまつわるジャーナリストたちの奮闘ぶりを描きつつ、ラストで不意に『大統領の陰謀』(76)と接続する構成が見事。
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33.『レディ・プレイヤー1』(18)140分
80年代ポップカルチャーを凝縮したアーネスト・クラインの小説『ゲームウォーズ』を、まさにそのムーヴメントのど真ん中にいたスピルバーグが映像化。ヴァン・ヘイレンの「JUMP」が鳴り響き、キングコングやメカゴジラが暴れまくり、『ストリートファイター』や『ソニックシリーズ』のキャラが躍動する、ゴキゲンなSFアドベンチャー。天才プログラマーのハリデーが口にする「ありがとう、私のゲームをプレイしてくれて」というセリフは、「ありがとう、私の映画を観てくれて」というスピルバーグ自身の辞世の句なのかも。
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スティーヴン・スピルバーグ監督作品 2020年代
34.『ウエスト・サイド・ストーリー』(21)156分
ミュージカル映画の偉大なる金字塔、『ウエスト・サイド物語』(61)を大胆にリメイク。オリジナルにも濃厚に描かれていた人種問題をより深く掘り下げると同時に、ジェンダーの問題、さらにはアメリカの銃問題にも目を向けることで、社会派映画としての強度を高めている。ジェッツとシャークスの対立は、まさに分断が進む今のアメリカの象徴。何よりも、本家をしのぐ躍動的なミュージカル演出に目を見張る。今さらですけど、映画撮るの上手すぎませんか。
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35.『フェイブルマンズ』(22)151分
スピルバーグ流「監督の異常な愛情 または私は如何にして心配するのを止めて映画を愛するようになったか」。盟友トニー・クシュナーと長時間に渡るセッションを重ね、少年時代の記憶を掘り返し、映像メディアの暴力性のみならず、自分自身に潜む暴力性すらも赤裸々に告白してしまうという、恐ろしい半自伝的作品。単なるノスタルジーへの回帰ではなく、本質的な映画論として機能してしまうことに、巨匠の凄みを感じてしまう。
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文:竹島ルイ
映画・音楽・TVを主戦場とする、ポップカルチャー系ライター。WEBマガジン「POP MASTER」(http://popmaster.jp/)主宰。
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