スティーヴン・スピルバーグ監督作品 2000年代
20.『A.I.』(01)146分
人間ならざる者が人間になりたいと願う『ピノキオ』(40)的プロットを、スタンリー・キューブリックが近未来SFとして企画。彼の死後、その意思を継いだスピルバーグ自ら脚本を書き、完成に漕ぎつけた異色のSF映画。世界の中心でA.I.が愛をさけぶも、その声に耳を傾ける者は誰もおらず、虚しく虚空へと消えていくかのような、ディストピアな悲劇。それを力技で涙腺決壊させてしまうスピルバーグには、脱帽するしかなし。
21.『マイノリティ・リポート』(02)145分
フィリップ・K・ディックの同名短編小説を映画化。無数の傘のなか逃走するという、アルフレッド・ヒッチコック監督の『海外特派員』(40)オマージュが捧げられた<巻き込まれ型サスペンス>。トム・クルーズが転がる目玉を追いかけるシーンは、えも言われぬ奇妙な味。出演時間は少ないながらも、サマンサ・モートン演じる予知能力者アガサの存在感が際立っている。あと皆忘れがちだが、調査官役でコリン・ファレルも出てます。
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22.『キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン』(02)141分
フランク・シナトラの軽快な「Come Fly with Me」が耳に残る、小粋なクライム・コメディ。ヘンリー・マンシーニ風のアーリー・ジャズ、ソウル・バスを彷彿とさせるタイトル・デザインが、ミッドセンチュリーモダンな雰囲気を醸し出していて、とにかく観ていて楽しい。父親に認められたい一心で詐欺に手を染めていくレオナルド・ディカプリオの姿は、かつてのスピルバーグそのもの。彼を追い回し続けるFBI捜査官のトム・ハンクスが、仮の父親として機能しているのも興味深い。
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23.『ターミナル』(04)129分
<内から外へと越境する物語>を一貫して描いてきたアンドリュー・ニコル(『ガタカ』(97)、『トゥルーマン・ショー』(98))原案のストーリーを元に、JFK国際空港に閉じ込められた男が何とか入国しようと奮闘する、やはり<内から外へと越境する物語>。東欧の共産圏からやってきた異国人が、空港の仲間と束の間の交流を深めるという意味では、『E.T.』の変奏とも読み取れる。それは、スピルバーグが描いてきたモチーフの一つ、“難民”と重なるものだったりもする。
24.『宇宙戦争』(05)116分
H・G・ウェルズの古典的小説を映画化。かつて『未知との遭遇』や『E.T.』で異星人との心温まる交流を描いたスピルバーグが、一転して異星人侵略を描くディザスターSF。大スターのトム・クルーズが主演しているにも関わらず、その役柄はブルーカラーの一市民で、「ただただ逃げ回るだけ」というカタルシスを発動させない作りは、『インデペンデンス・デイ』(96)と対照的。殺戮の限りを尽くすトライポッドの姿に、アメリカ同時多発テロ事件の生々しい記憶が呼び起こされる。
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25.『ミュンヘン』(05)164分
テロ組織・黒い九月がイスラエル選手団を殺害した、ミュンヘンオリンピック事件。その報復のため、事件に関与したパレスチナ人を諜報組織モサドが次々に暗殺していく。だがその報復は、新たな敵と憎悪を生み出すだけだった…。ユダヤ人であるスピルバーグが、中立的な立場から史実を見つめた傑作サスペンス。そして本作は、「テロには断固戦う!」と断言したアメリカ大統領ジョージ・W・ブッシュ(当時)への、毅然とした異議申し立てでもある。
26.『インディ・ジョーンズ/クリスタル・スカルの王国』(08)122分
「インディ・ジョーンズ」シリーズ第四弾。30年代を舞台に波瀾万丈な冒険を繰り広げてきたインディが、米ソ冷戦が深刻化する1957年という時代に復活する時点で、“時代遅れのヒーロー”であることは明白(最終作『インディ・ジョーンズと運命のダイヤル』(23)は、さらに12年後の1969年が舞台なのだが)。還暦を過ぎたハリソン・フォードが、それでも必死にアクションに取り組む姿は、どこかスピルバーグの姿に重なる。風で飛ばされてきたハットを、インディが奪い去るラストショットは、スピルバーグの生涯現役宣言なのかも。
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