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『キャプテン・アメリカ/ウィンター・ソルジャー』マーベル最大の転換点を「政治・映画・MCU」で再解読する

(c)Photofest / Getty Images

『キャプテン・アメリカ/ウィンター・ソルジャー』マーベル最大の転換点を「政治・映画・MCU」で再解読する

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キャプテン・アメリカというヒーローの虚無



 アメリカの国旗である星条旗を模した赤・青・白のスーツ、トレードマークの盾。まさしく国家の象徴であり、国民を代表するかのような存在として現れたキャプテン・アメリカは、もともとは痩せっぽちの病弱な青年、スティーブ・ロジャース(クリス・エヴァンス)だった。強い正義感を持ち、第二次世界大戦の最前線で戦いたいという意志に満ちていながら、肉体的な条件から望みを叶えられずにいたスティーブは、軍の極秘実験「スーパーソルジャー計画」の参加者に選ばれ、超人血清の投与を受けて肉体と精神の増強に成功する。かくしてキャプテン・アメリカとして戦いに臨むスティーブだったが、その先に待っていたのは親友であるバッキー・バーンズの死。さらには宿敵レッドスカルとの死闘を経て、北極の地で約70年の冷凍睡眠につくこととなる。


 スティーブが目覚めた現代のアメリカは、かつて自分が知っていた世界ではない。仲間たちはこの世を去り、ダンスの約束をしたペギー・カーターも自分の消息が途絶えたのちに家族を持ち、今では年老いて病床にあった。この時代では、スティーブが一人の人間として生きた痕跡が消えかかっている。そんな中でスティーブはなんとか時代に追いつこうと、体験できなかった“時代の空白”を埋めるのに一生懸命だ。持ち歩いているメモ帳に記されているのは、「アイ・ラブ・ルーシー」「月面着陸」「ベルリンの壁」「スティーブ・ジョブス」「スター・ウォーズ/トレック」「ニルヴァーナ」「ロッキー」といった言葉の数々。なにせ彼は、2001年9月11日の同時多発テロ事件さえ知らないのである。


『キャプテン・アメリカ/ウィンター・ソルジャー』(c)Photofest / Getty Images


 もっともスティーブにとって最も受け入れがたいのは、自分が信じていた〈正義〉の形が変容し、その信念を代表するはずだった軍さえも変わってしまったことだ。国際平和維持組織・S.H.I.E.L.D.の船舶を占拠した海賊を倒す任務でも、スティーブにすべての情報は共有されず、任務の全貌は明らかにされない。世界と国家の安全を守るため準備されている「インサイト計画」は、ワシントン上空の巨大ヘリキャリアと偵察衛星をリンクし、DNA情報に基づいてテロリストなどの危険分子を長距離砲で殺害するというもの。つまりはテロ行為が行われる前に危機の芽を摘んでしまおうという計画だが、第二次世界大戦においても自由を求めて戦ったスティーブは、「これは自由ではなく恐怖だ」と協力を拒む。


 ところが、世界はスティーブの想像以上に変化を遂げていた。スティーブらが参加した海賊討伐の任務は世界安全保障委員会で領海問題・国際問題に発展しかかっており、長官ニック・フューリー(サミュエル・L・ジャクソン)の責任が問われた。アベンジャーズの仲間であるブラック・ウィドウ/ナターシャ・ロマノフ(スカーレット・ヨハンソン)にせよ、あるいはフューリーにせよ、まっすぐに正義を追求しようという態度ではなく、どこかスティーブの不信感をかきたてる。あろうことかフューリーは何者かに狙われて重傷を負い、スティーブに「誰も信じるな」と言い残して絶命した。


 「正しいことをしようと思ってやってきた」。自分が信じてきた〈正義〉と、キャプテン・アメリカというヒーローの存在意義、その両方に虚無感を抱えたまま立ち上がるスティーブに、さらなる事件が襲いかかる。フューリーを殺害した暗殺者ウィンター・ソルジャーの正体は、70年前に死んだはずの親友バッキー・バーンズだったのである。




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