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『キャプテン・アメリカ/ウィンター・ソルジャー』マーベル最大の転換点を「政治・映画・MCU」で再解読する

(c)Photofest / Getty Images

『キャプテン・アメリカ/ウィンター・ソルジャー』マーベル最大の転換点を「政治・映画・MCU」で再解読する

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映画作家としてのアンソニー&ジョー・ルッソ



 さて、これまで『キャプテン・アメリカ/ウィンター・ソルジャー』を「政治・映画・MCU」という切り口を行き来しながら読み直してきたが、最後に、この作品を撮ったアンソニー&ジョー・ルッソという二人組に言及しておかなければならない。政治と映画、マーベルという要素の間に橋を架けながら、それでいてどれかひとつに頼りきらないという絶妙な感性で作品を立ち上げたのは、ほかでもないこの二人だからだ。


 監督デビューとなった自主映画『Pieces(原題)』(97)でスティーブン・ソダーバーグ&ジョージ・クルーニーに見出されたルッソ兄弟は、犯罪コメディ『ウェルカム・トゥ・コリンウッド』(02)で商業映画に進出。映画『トラブル・マリッジ カレと私とデュプリーの場合』(06)のほか、テレビの世界では『ブル~ス一家は大暴走!」(03~05)『コミ・カレ!!』(09~15)など多数のシットコムを手がけた。本作に抜擢されたのは、『コミ・カレ!!』の名物エピソードである「ペイントボール大会」を二人が手がけた際、ファイギ社長がアクション演出に惚れ込んだことがきっかけだという。


 映画マニアを自認するルッソ兄弟は、アンソニー・マッキーも指摘するように、冒頭の船上シーンで『ボーン』シリーズを思わせる現代アクション映画のスタイルを駆使してキャプテン・アメリカの変化を描いた。そのほかに二人が参考にした、引用したと公言しているのは、ブライアン・デ・パルマやスタンリー・キューブリックの監督作品、『007』『スター・ウォーズ』『ロッキー』シリーズ、『フレンチ・コネクション』(71)に『ヒート』(95)、そして『パルプ・フィクション』(94)である。


 『キャプテン・アメリカ/ウィンター・ソルジャー』から『アベンジャーズ/エンドゲーム』までの4作品を通じて、ルッソ兄弟は映画監督として高い評価を受け、いまやハリウッドが最も熱い視線を送るフィルムメーカーへと躍進した。その背景には登場人物をうまく絡ませるストーリーテリングの妙、シリアスとコメディを巧みに配分するバランスのほか、本稿で記してきたような作品の政治性と同時代性がある。


『アベンジャーズ/エンドゲーム』予告


 たとえば本作ののち、『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ』で二人が企んだのは、〈正義〉を行使する集団に政治権力が介入することの是非や、ある集団の思想的な対立を描くことだった。その詳細はいずれ機会があれば筆を執るとして、同作でルッソ兄弟は『キャプテン・アメリカ/ウィンター・ソルジャー』の政治性をさらに前進させている。また、その後の『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』『アベンジャーズ/エンドゲーム』では気候変動や持続可能性、そして倫理の問題などに取り組んだ。ジョー監督は『アベンジャーズ』2作品を「アメリカが過去4年間に経験したことを描いた」映画だと認めており、大作映画に政治的テーマを織り込む重要性を明かしている。「人々がよりよい選択をする助けになるし、影響を与えられる。まさに良いタイミングで、非常に強力なツールになったと思います」。


 ルッソ兄弟は『アベンジャーズ/エンドゲーム』をもってMCUを離れ、現在は自身の製作会社・AGBOにて独自のプロジェクトを多数進行中。プロデューサーとしても活躍しており、その中にはクリス・ヘムズワース主演の『タイラー・レイク ―命の奪還―』(20)、ISISと戦った特殊部隊を描いた実話映画『Mosul(原題)』(19)など、やはり政治的テーマを帯びた作品も少なくない。


 そんなルッソ兄弟の監督最新作は、トム・ホランドを主演に迎えた『チェリー』(21)。2021年3月12日にApple TV+で配信開始となったこの映画は、イラク戦争から帰還した青年がPTSDを患い、薬物依存となり、自分を見失いながらも銀行強盗を繰り返す物語だ。偶然だろうか、それとも必然だろうか、ここにきて二人が『キャプテン・アメリカ/ウィンター・ソルジャー』に重なるテーマに再び戻ってきたことに注目したい。アンソニー&ジョー・ルッソはハリウッドの最前線で、またキャリアの新たな局面において、変わらずエンターテイメントと政治性の融合に挑み続けているのだ。



[参考資料]

・映画『キャプテン・アメリカ/ウィンター・ソルジャー』音声解説

・How the MCU Was Made: ‘Captain America: The Winter Soldier’ https://collider.com/how-captain-america-the-winter-soldier-was-made/

・“Captain America: The Winter Soldier” Is About Obama’s Terror-Suspect Kill List, Say the Film’s Directors https://www.motherjones.com/politics/2014/04/captain-america-winter-soldier-obama-kill-list-politics-drones-nsa/

・Learn the History of the Term “Winter Soldier” and Why Ed Brubaker Used the Name in Captain America https://www.themarysue.com/winter-soldier-history/

・‘The Falcon and the Winter Soldier’ Star Anthony Mackie Soars to Marvel Leading-Man Status https://variety.com/2021/tv/news/anthony-mackie-the-falcon-and-the-winter-soldier-1234919610/

・Sebastian Stan on 'Endings, Beginnings' and "Massive Action" of 'Falcon and The Winter Soldier' https://www.hollywoodreporter.com/heat-vision/sebastian-stan-massive-action-falcon-winter-soldier-1291697

・The Falcon and the Winter Soldier: Sebastian Stan Says Bucky Is Kind of a Mess In Marvel Series https://thedirect.com/article/falcon-and-winter-soldier-sebastian-stan-bucky-marvel-mcu-infinity-saga

・Marvel directors the Russo brothers: 'The Avengers films were a powerful political tool, at the right time' https://www.theguardian.com/film/2021/mar/05/marvel-directors-the-russo-brothers-the-avengers-films-were-a-powerful-political-tool-at-the-right-time

・Trump revokes Obama rule on reporting drone strike deaths https://www.bbc.com/news/world-us-canada-47480207

・『 キャプテン・アメリカ:ウィンター・ソルジャー 』(小学館集英社プロダクション)



文: 稲垣貴俊

ライター/編集/ドラマトゥルク。映画・ドラマ・コミック・演劇・美術など領域を横断して執筆活動を展開。映画『TENET テネット』『ジョーカー』など劇場用プログラム寄稿、ウェブメディア編集、展覧会図録編集、ラジオ出演ほか。主な舞台作品に、PARCOプロデュース『藪原検校』トライストーン・エンタテイメント『少女仮面』ドラマトゥルク、木ノ下歌舞伎『東海道四谷怪談―通し上演―』『三人吉三』『勧進帳』補綴助手、KUNIO『グリークス』文芸。



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