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『キャプテン・アメリカ/ウィンター・ソルジャー』マーベル最大の転換点を「政治・映画・MCU」で再解読する

(c)Photofest / Getty Images

『キャプテン・アメリカ/ウィンター・ソルジャー』マーベル最大の転換点を「政治・映画・MCU」で再解読する

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複雑化した〈正義〉とロバート・レッドフォード



 国民を監視し、危険分子を殺害するインサイト計画。その首謀者は、世界安全保障委員会にも参加するS.H.I.E.L.D.理事であり、ヒドラの一員だったアレクサンダー・ピアースだ。彼は「平和を果たすのが私の任務」と豪語し、インサイト計画の是非については「我々の敵は無秩序と戦争だ。2,000万人を犠牲にすることで、70億人に秩序をもたらすことができる」と言い切る。どうやらピアースの中にも、自分が信じる〈正義〉の信念があるらしい。もっとも、それが万人にとっての正義だと言い切れるかは別の話だが。


 そんなピアースを前にして、キャプテン・アメリカ/スティーブ・ロジャースは、70年という年月とともに複雑化した〈正義〉と対峙しなければならなくなる。スティーブのように、ひたすら愚直に理想を追い求める形もあれば、ピアースのように手段を選ばず、また犠牲を厭わないという形もありうるからだ。現実にドナルド・トランプ政権の誕生後、〈正義〉を行使するはずの政治のありようによって国家・国民の分断が進行したことを鑑みれば、その意味でも本作には先見性があったといえる。また、コロナ禍における国内外の情勢や世論を想起するならば、アーニム・ゾラ博士の「(混乱下において)人類は安全を得るために自由を差し出す」という言葉も違った響きをまとう。この物語は、局面や立場に応じて〈正義〉が揺らぎ、そのために人々の思考や行動が左右されることを見事に言い当てているのだ。


 そして、『キャプテン・アメリカ/ウィンター・ソルジャー』という映画における最大のポイントは、アレクサンダー・ピアースという悪役(ヴィラン)を名優ロバート・レッドフォードが演じたところにある。監督たちはレッドフォードを「健全なアメリカの代表」「昔ならばキャプテン・アメリカ役にぴったりの役者」と呼んでいるが、本作に影響を与えた『コンドル』でCIAの腐敗を暴く主人公を、また実話政治スリラーの傑作『大統領の陰謀』(76)で政府の不正に迫る記者を演じたのが彼だったのだ。そのレッドフォードが、本作では自分の信じる〈正義〉のために、迷わず悪の道を突き進む……。おそらく〈正義〉のねじれを表現する上で、これ以上のキャスティングはなかっただろう。


『大統領の陰謀』予告


 ちなみに『大統領の陰謀』もまた、本作を語る上で無視できない映画のひとつだ。同作が描いたのは、1972年6月、ワシントンの民主党全国委員会本部にリチャード・ニクソン米大統領(共和党)の再選委員会関係者が盗聴器を仕掛けようとして逮捕されたことに端を発し、1974年にニクソンが辞任まで追い込まれた「ウォーターゲート事件」(※注2)。政府による監視を描く本作の舞台がワシントンであること、キャプテン・アメリカによるエレベーターの格闘シーンの始まりに、民主党本部があったウォーターゲート・ビルが映り込んでいることは明らかに製作陣の狙いである。


(※注2)ウォーターゲート事件は『大統領の陰謀』のほか、『ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書』(17)や『ザ・シークレットマン』(17)などで描かれている。




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