主演女優が語る、俳優のいない撮影現場
(※ここでたまたま取材場所を訪れた、かや子役の加藤才紀子さんが参加〉
Q:加藤さんをかや子役に決めた理由は?
村山:『堕ちる』を作った2年後くらいのことですが、加藤さんがきりゅう映画祭で観た映画に出てたんです。周囲に流されない大学生役で、メガネかけたオタク少女みたいな、わりと今回の役そのままのイメージで、オーディションとかではなく直接お願いしました。
Q:かや子は、役としてとら男さんを引っ張るだけじゃなく、役者としての虎男さんをある程度コントロールする役割だと思うんですが、どこまで自分のやるべき役割だと把握して演じていましたか?
加藤:監督から、こういう話をしてください、みたいな指示はありましたけど、自分でもちょっと俯瞰して計算をしているところはありましたね。虎男さんの金沢弁の語尾が伸びる感じだったので、それでシーンが流れてしまわないように、私はムダな言葉は言わないようにして、なるべく短い言葉で喋ろうとかは考えてました。
村山:加藤さんは、本当に監督的、プロデューサー的な視点を持ってる役者さんなんです。
『とら男』(C)「とら男」製作委員会
Q:猛獣使いのように虎男さんを操ってる感覚でしたか?
加藤:私は虎男さんと喋っていても、そんなに猛獣っぽい感じはしなかったんです。10年くらい前の雑誌の記事のお写真を見ると、やっぱり鋭いなあと思うんですけど、今はその鋭さがちょっと抜けて、ふわふわしたお爺ちゃんだなって(笑)。
でも普段はぜんぜん好々爺なんですけど、やっぱり実体験のお話をされるときはスイッチが入って、昔に戻る感じがしましたね。そうなると私はまったく知らないことだらけだし、特にコントロールするとかは考えずに、ただ興味深く聞いてましたけど。あと虎男さんの話が……。
村山:長い。長いっすよねえ(笑)。
加藤:平気で10分くらい喋るんで(笑)。
Q:確かに映画で10分間のセリフってなかなかないですよね。
村山:映画では少ししか使ってないですけど、お好み焼き屋で起きた殺人事件の話をしている場面も本当は10分くらいありました。
Q:演技経験のない人との共演はいかがでしたか?
加藤:やっぱり普段とは全然違っていて、脚本があって、俳優同士でやるってなんてラクなんだろうとは思いましたね(笑)。
村山:加藤さんの疲労度がぜんぜん違いますよね。
加藤:役の話とか、ちょっとした打合せとかはできなくて。そんな話をしたところで、虎男さんが不自然になってしまっても良くないですし。
Q:かや子が泊まっているホテルのおばさんも、現地で見つけた方ですか?
村山:あのラブホテルはロケハンで偶然見つけたんですけど、おばさんも誰かに紹介されたわけではなく、たまたまホテルで働いていた人なんです。最初は不審がられたんですけど、そのうちに仲良くなって、キャラも濃いし、お願いしたら映画に出てくれたんです。
Q:かや子とおばさんがホテルの屋上で喋るシーンはアドリブですか?
加藤:アドリブですね。
村山:おばさんには「今、あの子が悩んでるんで、話を聞いてあげてください」くらいしか指示してないんですよ。ちょっとすごいですよね。
Q:ぜんぜんカメラを意識しているように見えないんですが、望遠レンズですか?
加藤:いや、カメラは近かったですよ。
村山:やっぱりあのおばさんがバケモノだったんですよ。自分では「やれる」と言っても、カメラ回すとヘタになったりする人は多いと思うんですけど。
Q:頭にいつもタオル巻いているのも天才だなって思いました。
加藤:普通の劇映画であの格好を衣装部が考えるかっていうと、まあないですよね。
村山:もともとがああいう感じなんです。だから服装の指定もせずに、たまたま着ていたもので出てもらったんです。
加藤:色もかぶらないし、絶妙でした。
Q:いろいろと偶然の奇跡が多い現場ですね。
加藤 そういうことはいっぱいありましたね。
村山:それこそかや子が水を買いに行って、自販機に小銭を入れたらそのままお釣り受けに落ちてきて、もう一回入れ直す。その時に再捜査をすればいいんだと気づくシーンがありますけど、あれも偶然なんです。最初はペットボトルが落ちてくる音でひらめく、みたいなことを考えてたんですけど、小銭を入れ直すことで、ひらめく理由がより明快になりました。
(※ここで加藤才紀子さん、退場〉