監督の分身でもあるもうひとりの主人公
Q:再撮影で追加されたという大学のシーンも、かや子の動機づけの上で重要な場面ですよね。
村山:確かに最初に作ったバージョンだとちょっと弱い感じはしていて、あのシーンを足しました。かや子が事件にのめり込んでいく動機の部分が弱いという意見をいただくことがあるんですが、実はいろいろと散りばめてはいるんです。
Q:大学には居場所がなさそうだったかや子が、捜査にのめり込むことで俄然生き生きしてくる。その野次馬的な視点が、劇中のかや子のことだけじゃなく「映画を観る」行為そのものの搾取性を批評的に描いている気もしました。
村山:正直そこまでは考えてなかったというか、かや子というキャラクターには僕の性格が結構出ているんだと思うんです。かや子って、ちょっとサイコパスっぽかったりするじゃないですか。それはたぶん、僕自身がそうだったりするんですよ。変な行動力というか、ひとつ興味があることがあったらガッと突っ走ってしまう。『堕ちる』の主人公がアイドルにハマってまわりが見えなくなっちゃうのも、結局は自分のことを描いている感じはありました。
もっと客観視することで、また違う物語を描けるんじゃないかと考えてはいるんですけど、今回は長編一作目なんで、どうしても自分が色濃く出た部分はあると思います。
『とら男』(C)「とら男」製作委員会
Q:虎男さんの電子書籍「田舎爺がベスト男優賞?」に初期プロットが掲載されていますが、完成品とはかなり違っていますね。撮影中も常に作品のかたちは変わっていったんでしょうか?
村山:当初に思っていたよりいろいろ変わりましたね。最後のシーンも準備して撮れるものではなく、それも奇跡だと思いました。まず金沢のパートを石川県で撮影したのが2019年の11月なんですけど、その後2020年3月に横浜のプールで撮る予定だったのが、コロナで流れて7月に延期したんです。その空いた時期に地元に帰って、いろんな人を取材して回っていたんですが、たまたま事件の現場はどうなってるんだっけと思ってスイミングスクールに行ってみたら、ちょうど解体工事をしてたんです。
「今だ!」って思って虎男さんに電話したらすぐ来てくれて、ちょうどインタビュー用にカメラも持っていたので、現場の向かいにある6階建てくらいのマンションの上から、とら男さんがプールに佇むラストシーンが撮れたんです。