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劇場版『スター・トレック』を生んだ特撮スタッフの奮闘と彼らが残したもの 前編

(c)Photofest / Getty Images

劇場版『スター・トレック』を生んだ特撮スタッフの奮闘と彼らが残したもの 前編

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テレビ版シリーズの誕生



 米国のテレビ脚本家/プロデューサーのジーン・ロッデンベリーは、SFテレビドラマシリーズ『宇宙大作戦』(Star Trek)を考案する。そしてその企画書を、各放送局や制作プロダクションに持ち込むが、なかなか採用されなかった。最も期待されたのが、海洋SFシリーズ『原子力潜水艦シービュー号』(64~68)を手掛けるアーウィン・アレン・プロダクションだったが、すでに「SFシリーズ『宇宙家族ロビンソン』(65~68)の制作がCBS向けにスタートしている」という理由で断られてしまう。


 最終的に採用を決めたのは、『ブラボー火星人』(63~65)や『スパイ大作戦』(66~73)などを手掛けるデシル・プロダクション(*1)だった。こうして『宇宙大作戦』は、同社とロッデンベリー自身のノルウェー・コーポレーションの共同制作でスタートし、1966年からNBCで放映開始された。


 その内容が画期的だったのは、惑星連邦という大胆なSF設定である。これは、地球を含む150ほどの星系が属する巨大な組織で、主人公たちが乗船する宇宙艦隊のUSSエンタープライズのクルーには、アメリカ白人だけでなく、スコットランド人、ロシア人、アジア人、アフリカ人女性など各民族を配した。また科学士官スポック(レナード・ニモイ)に、異星人(バルカン人)と地球人のハーフという設定を与え、キャラクターに深みを持たせている。


『スター・トレック 宇宙大作戦』予告


 ロッデンベリーはこの惑星連邦を、人種や国籍、性別などの差別(*2)が完全に廃され、貧困や戦争なども根絶された理想世界として描いた。その一方で惑星連邦以外の地域では、敵対異星人のクリンゴン人やロミュラン人との紛争が続いているという設定を持たせ、当時の社会が抱える複雑な問題を、SFという形で表現したものだった。


 またワープドライブ、転送装置、フォースフィールド、携帯通信機のコミュニケーター、探査・分析装置のトライコーダー、診断装置のメディカルトライコーダーなどといったガジェットが、23世紀の未来描写にリアリティを与えている。こういった設定はSF小説では珍しくなかったが、SFに馴染みのないテレビ視聴者には敷居の高さを感じさせたようで、視聴率的にはふるわなかった。その結果、1969年の第3シーズンまでで放映は打ちきりとなってしまった。


 だが、(日本の『宇宙戦艦ヤマト』や『機動戦士ガンダム』がそうだったように)再放送で観た世代がファンとなり、徐々にブームになっていった。そして各地でコンベンションが開催されるにようになり、トレッキーまたはトレッカーと呼ばれる熱心なファンが増えていく。その一方でロッデンベリーは、新たなテレビシリーズを製作する機会(*3)に恵まれないでいた。


*1 『宇宙大作戦』が放映中の1967年に、デシル・プロダクションはガルフ・アンド・ウェスタン・インダストリーズ(G+W)に売却される。G+Wはその前年にパラマウント・ピクチャーズも買収していたことから、デシルはパラマウント・テレビジョンと改名された。G+Wは1989年にメディア系以外の部門を売却し、パラマウント・コミュニケーションズに改名したが、1994年にCATV大手のバイアコムに買収された。さらにバイアコムは、かつての親会社であったCBSを1999年に買収し、パラマウント・テレビジョンはCBSパラマウント・テレビジョンとなる。2005年にバイアコムは、パラマウント・ピクチャーズを新バイアコムとして分離し、テレビ番組製作部門はCBS傘下に残した。2019年8月には、再びバイアコムとCBSが統合され、新社名をバイアコムCBSとした。


*2 同時期に放送されていた『原子力潜水艦シービュー号』や『宇宙家族ロビンソン』などのSFドラマには、白人以外の俳優はほとんど登場していない。当時はこれが一般的だった。


*3 ロッデンベリーはパイロットフィルムとして、『SF地球最後の危機』(Genesis II, 73)、『人造人間クエスター』(The Questor Tapes, 74)、『Planet Earth』(74)、『Spectre』(77)などのSFやホラー作品を製作したが、いずれもシリーズ化には至っていない。



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