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劇場版『スター・トレック』を生んだ特撮スタッフの奮闘と彼らが残したもの 前編

(c)Photofest / Getty Images

劇場版『スター・トレック』を生んだ特撮スタッフの奮闘と彼らが残したもの 前編

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RA&Aの降板と彼らが残したもの



 パラマウントは、RA&Aに監視兼連絡役としてユーリシッチを送り込み、またトランブルにも1979年1月から3月の間、無給のコンサルタントというポストを与えていた。しかしそれはあくまで建前で、パラマウントはFGCから9台の65mmカメラやオプチカルプリンターなど、機材の大部分を没収してRA&Aに提供していたのである。これによりFGCでは、ショースキャンやシネライドなど、一切の研究開発が止まってしまっていた。そしてショースキャンを用いる予定の、トランブルの劇場用監督作品『Brainstorm』(*21)の企画にもGOを出していない。それはまさしく、トランブルが親会社に逆らったことへの罰だった。


 だがパラマウントは、1979年3月にRA&Aをプロジェクトから降ろし、トランブルを再び特撮監督に指名する。理由は、プロジェクトのスタートから13ヵ月経過して、実写パートは撮影を終えていたが、特撮作業が大幅に遅れていたからだ。そこで事実上のプロデューサーだったカッツェーバーグ(*22)は、このままでは公開日に間に合わないと判断したのである。(*23)


 だがこれはあくまでパラマウント側の意見で、RA&A側は「作業が遅れたのはシナリオが何度も書き直され、それに伴ってストーリーボードの変更が繰り返されたことにより、なかなか実作業に取り掛かれなかったためだ」と主張している。実際アートディレクターのリチャード・テイラーは、全てのストーリーボードを4回も書き直している。それに伴い新たな視覚効果シーンが追加されていき、当初の140ショットから500ショット以上に増え、予算もどんどん膨れ上がっていった。


 RA&Aの降板は残念だったが、エイブルやコバックスらが生み出したプリビズという概念は、現在の映画制作では当たり前のものになっている。特に視覚効果を多用する作品では、不可欠な存在だと言えよう。


 またその後コバックスは、RA&AでCGの開発を進め、1984年に独立した。彼はウェーブフロント・テクノロジー社を設立し、高度なCGソフトウェア「Preview」の市販を開始する。同社は、様々な企業と合併や買収を繰り返し、それらの会社の製品と統合されていった。現在はオートデスク社の「Maya」というソフトに進化し、これを用いていない映画やゲームなどを探すのが困難なほど普及している。


*21 この企画は、他人の記憶や過去の感覚を追体験させる装置“ブレインスキャン”の描写にショースキャンを用いるというものだった。後にMGMにおいて『ブレインストーム』(83)として映画化が実現するが、1劇場あたり設備費が5万~10万ドル掛かるという結果が出て、ショースキャンの使用は見送られた。代案として採用されたのは、通常場面は35mm 4Pのアスペクト比1.66:1で撮影し、ブレインスキャン・シーンを65mm 5Pの2.35:1で撮るというものだった。フレームレートはどちらも24fpsである。


*22 クレジット上はロッデンベリーがプロデューサーで、「Star Trek: Phase II」で脚本編集を担当していたジョン・ポヴィルがアソシエイトプロデューサーと表記されている。だが、実際にこの映画を最後まで仕切ったのはカッツェーバーグだった。


*23 そうは言ってもこの状況は『スター・ウォーズ』と変わらない。ルーカスが英国での実写撮影を終えて帰国した時、ILMはまだ1カットしか仕上げていなかった。それと比べればRA&Aは、ワームホール・シーンの船内描写を完成させていただけましである。だが、基本的に20世紀フォックスが出資していた『スター・ウォーズ』に対し、『スター・トレック』には複数の出資者が存在していた。そのため公開日が1日でも遅れれば、パラマウントが集団訴訟される恐れがある。したがって、この時点で見切りを付ける必要があると判断したのだろう。


 ちなみにワームホール・シーンの船内描写は、一見ビデオフィードバックで作られているように見えるが、35mmフィルムで作業されたものである。ロバート・スワースが、画面内の明るい箇所をロトスコープで抜出し、リア・プロジェクションしてモーションコントロールカメラで再撮する。この際に、フレームとシャッターを固定した状態でカメラを移動させ、光が流れたようなストリーク像を作り出した。



【参考文献】

シネフェックス4号, バンダイ (1984 Spring)

DVD 「スター・トレック ディレクターズ・エディション 特別完全版」 パラマウント ホーム エンタテインメント ジャパン (2002)

Memory Alpha

岸川靖 著: 「スタートレック パラマウント社公認 オフィシャルデータベース」 ぶんか社 (1998)

マイケル・ベンソン 著: 「2001: キューブリック、クラーク」 早川書房 (2018)



後編はこちらから

劇場版『スター・トレック』を生んだ特撮スタッフの奮闘と彼らが残したもの 後編



文: 大口孝之 (おおぐち たかゆき)

1982年に日本初のCGプロダクションJCGLのディレクター。EXPO'90富士通パビリオンのIMAXドーム3D映像『ユニバース2~太陽の響~』のヘッドデザイナーなどを経てフリーの映像クリエーター。NHKスペシャル『生命・40億年はるかな旅』(94)でエミー賞受賞。最近作はNHKスペシャル『スペース・スペクタクル』(19)のストーリーボード。VFX、CG、3D映画、アートアニメ、展示映像などを専門とする映像ジャーナリストでもあり、映画雑誌、劇場パンフ、WEBなどに多数寄稿。デジタルハリウッド大学客員教授の他、東京藝大大学院アニメーション専攻、早稲田大理工学部、日本電子専門学校などで非常勤講師。



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(c)Photofest / Getty Images




『スター・トレックI/リマスター版スペシャル・コレクターズ・エディション』

Blu-ray: 1,886 円+税/DVD: 1,429 円+税

発売元:NBCユニバーサル・エンターテイメント

Copyright (C) 1979 by Paramount Pictures Corporation. All Rights Reserved. (C)2010 Paramount Pictures Corporation. STAR TREK and related marks and logos are trademarks of CBS Studios Inc. All Rights Reserved.

※ 2020年1月の情報です。

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