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劇場版『スター・トレック』を生んだ特撮スタッフの奮闘と彼らが残したもの 前編

(c)Photofest / Getty Images

劇場版『スター・トレック』を生んだ特撮スタッフの奮闘と彼らが残したもの 前編

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劇場版制作が動き出すまで



 『スター・トレック』の権利を持っていたパラマウント・ピクチャーズのプロデューサーであるジェフリー・カッツェンバーグは、ファン活動の盛り上がりを受け、1975年にロッデンベリーへ劇場版の企画開発を依頼する。だがロッデンベリーが書いた「Star Trek: The God Thing」という脚本はパラマウントに却下され、多くのSF作家がリライトを繰り返すが、企画は棚上げになってしまった。


 そして次なる企画として、1976年に「Star Trek: Planet of the Titans」というプロットの開発が進められた。そして脚本がまだ完成しない内から、『スター・ウォーズ』(77)に参加していたコンセプト・アーティストのラルフ・マクォーリーが、新しいUSSエンタープライズのデザイン画を描いている。監督にはフィリップ・カウフマンが選ばれ、三船敏郎をクリンゴン人としてキャスティングし、実験映像作家のジョーダン・ベルスンに特撮を依頼する案まであったが、この企画も1977年にキャンセルとなってしまった。


『スター・ウォーズ 新たなる希望』予告


 パラマウントのバリー・ディラー会長は、やはり『スター・トレック』はテレビシリーズが相応しいと考え、ロッデンベリーに企画開発を依頼する。そして実際に、「Star Trek: Phase II」と題されたシリーズの脚本が検討される。1977年8月にSF作家アラン・ディーン・フォスターが、謎の機械生命体「ヴィジャー」というアイデアを提案し、脚本編集のジョン・ポヴィルが「ヴィジャーが自分のクリエーターを探し求めている」という案を思い付いた。その後、シナリオが12話まで書かれ、新たなセットやミニチュア(*4)も作って撮影テスト(*5)が行われる。


 だが、1976年からパラマウントの社長兼COO(最高執行責任者)に就任したマイケル・アイズナーは、『スター・ウォーズ』のヒットに衝撃を受け、この企画を劇場映画に変更しようと悩み始める。そして4回に渡り、テレビシリーズと映画の間で企画変更が繰り返され、1978年1月上旬に劇場版『スター・トレック』の制作開始が決定された。


*4 1977年9月に、「Star Trek: Phase II」の視覚効果がマジカムという会社に依頼されている。そして彼らは、実際に宇宙船などのミニチュア制作を開始していた。


 マジカムを特徴付ける技術として、実写撮影用のビデオカメラと、ミニチュア撮影用のペリスコープ式カメラをサーボメカニズムで連動させ、専用に開発されたクロマキー技術のテクニマットによって、高精度の合成画面を実現させるシステムがあった。元は米ロヨラ大学において1972年に開発された技術で、1973年にプロトタイプのデモを見た新しいモノ好きなパラマウント社長のフランク・ヤブランズが、同社の子会社として1974年に設立した。創立時には、ダグラス・トランブルも1年間だけコンサルタントを務めている。


 この合成システムを用いた代表作には、テレビムービー『UFOとの遭遇』(75)、カール・セーガンの科学番組『コスモス』(80)、テレビシリーズ『UFO時代のときめき飛行 アメリカン・ヒーロー』(81)があり、「松下電器テクニクスV55」(77)のCMにも使用されている。マジカムは1982年に閉鎖され、スタッフの何人かはアポジーに移った。


*5 この段階でアイリーア役のパーシス・カンバータもキャスティングされており、実際に髪を剃って撮影テストを行っている。



監督に決定したロバート・ワイズ



 監督は何人も候補者が変更され、1978年3月にロバート・ワイズが選ばれた。ワイズは、テレビシリーズ版を見ていなかったため一度断るが、アイズナーとカッツェンバーグの熱心な説得によって承諾する。だが10本ほどのシリーズを見た後、この映画にはどうしてもレナード・ニモイの出演が不可欠だと判断した。


 この段階でシナリオは未完成だったが、ニモイが出演しないことは決定していた。彼はスポック役に嫌気が差していたのと、パラマウントが自分のキャラクターの二次使用に対し、報酬を支払っていなかったことによるものだった。そこでカッツェンバーグはニモイに出演を懇願し、ようやく了承を得た。


 こうして映画はクランクインするが、まだロッデンベリーがシナリオの修正を繰り返していたため、脚本未完成のまま撮影が進められる。そしてストーリー会議が頻繁に行われ、毎日のように修正が加えられており、結末に関する重大な変更をニモイやシャトナーが提案し採用された。しかしこういったシナリオの頻繁な修正は、視覚効果チームの仕事を大きく圧迫していくことになる。



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