1. CINEMORE(シネモア)
  2. 映画
  3. スター・トレック
  4. 劇場版『スター・トレック』を生んだ特撮スタッフの奮闘と彼らが残したもの 前編
劇場版『スター・トレック』を生んだ特撮スタッフの奮闘と彼らが残したもの 前編

(c)Photofest / Getty Images

劇場版『スター・トレック』を生んだ特撮スタッフの奮闘と彼らが残したもの 前編

PAGES


プリビズという概念の誕生とその必要性



 つまり初めての大仕事を前にして、RA&Aは戦力の大幅ダウンを強いられていたのである。そこでエイブルは強力な人材として、米国最大級の建築設計事務所であるスキッドモア・オーウィングズ&メリル(SOM)でCADの開発をしていたビル・コバックスを誘った。大会社の歯車として働くことにすっかり嫌気を感じていたコバックスは、喜んで『スター・トレック』に参加する。カーネギーメロン大学やイエール大学で建築を学んできたコバックスには、ハリウッドの映画制作環境は何とも非効率的に思えた。そこで大胆なシステムを、エイブルとデザインし始める。


 まずコバックスは、RA&Aにエヴァンス&サザーランド(以下E&S)社のピクチャーシステム2(以下PS-2)を購入させる。この機械は、白黒のワイヤーフレーム(線画)ながら、3D図形をリアルタイムでアニメーション表示できるという、当時では画期的な製品だった。この機械を用いてコバックスたちがやろうとしていたのは、今で言うプリビズ(プリビジュアライゼーション)、つまり撮影のシミュレーションである。



『スター・トレック』Copyright (C) 1979 by Paramount Pictures Corporation. All Rights Reserved. (C)2010 Paramount Pictures Corporation. STAR TREK and related marks and logos are trademarks of CBS Studios Inc. All Rights Reserved.


 例えば『スター・ウォーズ』の場合、ダイクストラフレックスを駆動させるステッピングモーターの速度が遅かった。また、模型をパンフォーカス(ディープフォーカス)で撮影する関係上、どうしてもスローシャッターが必要で、撮影中は雰囲気がつかめない。そのため、まずカメラに白黒フィルムを装填してテスト撮影(*19)を行い、スタジオ内で簡易現像して動きのチェックを行う。この面倒な作業を繰り返して、ようやく本番撮影に入れる。


 だがE&S PS-2を用いれば、ワイヤーフレームで完成したシーンのシミュレーションが行える。カメラ軌道のコントロールポイントや、CGモデルのサイズ、位置、方向などは複数のダイヤルでセッティング可能だ。プレビューはリアルタイムで行え、修正もその場ですぐに出来る。このデータには、カメラのレンズ画角や、モーションコントロールシステムの機械的制限情報も入力されており、そのまま本番撮影に反映させられる。(*20)


 そしてコバックスは、このシステムを約束通り完成させていた。それが証拠に、『スター・トレック』から降ろされた直後にRA&Aが制作した、シェーバーのCM『Brawn Micron 2000』(79)では、モーションコントロールカメラと連動させたプリビズシステムとして、完全に機能させている。


*19 しかしこの作業で撮れるのは、画面を構成する一要素にすぎない。複数の宇宙船や背景の構造物などが、それぞれ異なる軌道で動いている場合、オプチカルプリンターで仮合成してみるまで、相対速度や距離感などが正しいかどうか分からないのだ。そこで、撮った映像をハイコントラストフィルムのネガ(背景が透明になる)に焼いて、数本重ねてムビオラ(編集用のビュワー)に掛けてチェックする。これはかなり乱暴な方法だ。


*20 だがRA&Aはこれだけに留まらず、テレビ局の副調整室のように、複数のモーションコントロールカメラやオプチカルプリンターを、中央のコンピュータールームで一括してコントロールできるような仕組みまで考えていたが、さすがにこれは無理だったであろう。エドランドは、かつての雇用主であるエイブルに「無謀過ぎるから止めた方が良い」と忠告したが、エイブルは聞く耳を持たなかったようである。



PAGES

この記事をシェア

メールマガジン登録
  1. CINEMORE(シネモア)
  2. 映画
  3. スター・トレック
  4. 劇場版『スター・トレック』を生んだ特撮スタッフの奮闘と彼らが残したもの 前編