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劇場版『スター・トレック』を生んだ特撮スタッフの奮闘と彼らが残したもの 前編

(c)Photofest / Getty Images

劇場版『スター・トレック』を生んだ特撮スタッフの奮闘と彼らが残したもの 前編

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RA&Aの設立の経緯、そして内紛へ



 その後エイブルはデイヴィッド・L・ウォルパー社に入社し、『A Nation of Immigrants』(67)や、『Making of the President 1968』(69)などのドキュメンタリー映画を監督する。しかしロバート・ケネディの暗殺現場に居合わせたり、ベトナムの戦場取材などを経験し、すっかり現実世界に疲れ、『エルビス・オン・ツアー』(72)や『ロックンロール・エクスプロージョン』(73)などの、音楽映画へと方向を変えて行った。


 一方『2001年宇宙の旅』の仕事を終えたペダーソンは、1970年にエイブルと再開し、特撮プロダクションの設立を提案する。それは、『2001年宇宙の旅』終了後のスタジオで眠っていたスリットスキャン装置を購入して、CMなどを作成するというプランで、こうして1971年にエイブルを社長とするRA&Aが結成された。


『2001年宇宙の旅』予告


 初めはエイブルが音楽映画監督との兼任だったため、広告会社のサリバン&マークスから受注した、放送局のロゴや番組タイトルなどを作っていた。だが1974年には、CM制作を本格化させるために、『サイレント・ランニング』の特撮スタッフだったリチャード・アレキサンダーや、『宇宙大作戦』で特撮を手掛けていたエドランド、後にリズム&ヒューズ・スタジオを設立するジョン・ヒューズ、エグゼクティブプロデューサーのシェリー・マッケナ、さらにライトアーティストのリチャード・テイラーやウェイン・キンブルなどを雇った。


 そして超絶に複雑なオプチカル合成を行った7upのCM『Bubbles』(74)(*16)を発表し、一躍世界的に名が知れ渡る。続いて、同じく7upの『Uncola』(75)や、リーバイスの『Brand Name』(77)(*17)といった特撮CMを次々と生み、クリオ賞(世界三大広告賞の1つ)を連続して受賞する。彼らの作る光と色彩にあふれたサイケデリックな映像は、「イルミナテック・エフェクト」などと呼ばれ、(日本を含む)世界の広告業界に一大ブームを巻き起こした。つまりこの技術とセンスに、パラマウントは『スター・トレック』の命運を賭けたのである。


 だが『スター・トレック』の依頼が来るより前に、RA&A内ではゴタゴタがあった。同社スタッフのエドランドが、『宇宙大作戦』を手掛けていたころ所属していたウェストハイマー社では、実際の合成作業をハワード・アンダーソン・オプチカル社に依頼していた。同社社長のハワード・アンドリュー・アンダーソンは、著名な特撮監督であるジョン・P・フルトンの依頼で、ビスタビジョン用オプチカルプリンターを開発したことがあった。だがこの機械は、パラマウントが短期間でビスタビジョンから撤退してしまったことにより、『十戒』(56)と『北北西に進路を取れ』(59)の合成に使用されただけで倉庫に仕舞い込まれていた。


『十戒』予告


 この情報を得ていたエドランドは、エイブルにこの機械を購入して欲しいと頼んだのである。しかし、エイブルがこの要求を拒否したことから関係が悪化し、エドランドはダイクストラのILMへ移籍してアンダーソン・オプチカルプリンターの導入と改造を実現させた。またエドランドの誘いで、アレキサンダーもILMへ移ってしまう。


 さらにウェイン・キンブル(*18)が長編映画参加に反対し、『スター・トレック』のクランクイン前に多くのスタッフと共に独立してしまった。この中には、エイブルが『スター・トレック』のために特別に雇った、光学技術者のクリストファー・デュッセンドスコーンもいた。加えてエグゼクティブプロデューサーのマッケナも、予算を巡るパラマウントとのゴタゴタに嫌気が差して、1977年末にRA&Aを辞めていた。


*16 最近この7up『Bubbles』が、宝くじ・ビンゴ5のCM『イメージ映像篇』でパロディーされていて驚いた。


*17 このリーバイスのCMの制作にRA&Aは19万ドルで引き受けたが、実際は33万ドル掛かってしまい同社の経営を圧迫させた。このようにエイブルは金銭面にルーズな所があり、採算度外視で仕事をしてしまう傾向にあった。


*18 キンブルらは、ミッドオーシャン・モーション・ピクチャーズ社を設立したが、わずか2年ほどで倒産させてしまい、デュッセンドスコーンもRA&Aに戻って『トロン』(82)に参加している。



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