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『スコット・ピルグリム VS. 邪悪な元カレ軍団』原作から最新作『スコット・ピルグリム テイクス・オフ』まで「スコット・ピルグリム」の歴史大解説 ※注!ネタバレ含みます
2023.12.04
※本記事は物語の結末に触れているため、映画をご覧になってから読むことをお勧めします。
『スコット・ピルグリム VS. 邪悪な元カレ軍団』あらすじ
カナダの売れないバンドマン・スコット・ピルグリムは、ある日ニューヨークから引っ越してきた個性的な女の子・ラモーナに一目惚れ。ところが、突然ラモーナの元彼たちが次から次へとスコットに戦いを挑んでくる。バンドの勝ち抜きライブと並行して、スコットは邪悪な元彼軍団と死闘を繰り広げる。
第1巻の出版から約20年が経とうとしているが、コミック「スコット・ピルグリム」(04~10)の人気は健在だ。2023年11月より、アニメ版の『スコット・ピルグリム テイクス・オフ』の配信がNetflixで開始されたことでもその人気ぶりがわかるだろう。遡ること2010年に制作された映画版『スコット・ピルグリム VS. 邪悪な元カレ軍団』は、カルト映画としてその地位を確立していることで有名だが、アニメ版は映画のキャストが声優として再登板することでも話題になった。
全世界でファンがいる「スコット・ピルグリム」だが、その始まりは、カナダの青年が描いた極めて個人的な物語からだった。今回は「スコット・ピルグリム」がどのような変遷を経て、現在のような人気作に至ったのかを解説したいと思う。
『スコット・ピルグリム VS. 邪悪な元カレ軍団』予告
Index
- コミック「スコット・ピルグリム」とは
- 日本漫画へのオマージュと引用
- 原作進行下での脚本開発
- 錚々たるキャストたち
- ゲームと映画のハイブリッド
- エドガー・ライトのこだわり
- 圧巻の映像を生み出したアクション・トレーニング
- 別エンディングに関して
- 全くヒットしなかった映画、そしてカルト映画へ
- 動き出したアニメ版
- 『スコット・ピルグリム テイクス・オフ』の円熟味
コミック「スコット・ピルグリム」とは
「スコット・ピルグリム」はカナダの漫画家であるブライアン・リー・オマリーによって、2004年8月から2010年7月にかけて発売された全6巻のインディーズ・グラフィックノベルである。
2001年頃から漫画家の仕事を始めていたオマリーは、2003年に「Lost at sea」というタイトルの作品で長編デビューを果たした。自分の魂を猫に盗まれたと信じている18歳のカナダ人の女の子が、とある出来事をきっかけに、同じ高校のクライスメイトたちと共にカルフォルニアからバンクーバーの自宅まで旅をするという青春物語は、非常に内省的な作品であったため、オマリーの仲間内の評判はあまりよくなかった。そこで次作は友人たちが喜ぶ漫画を描こうと思い、「スコット・ピルグリム」の制作に取り掛かった(ちなみにアシスタントは最終巻の制作以外ではつけず、1人で描いていたそう)。
「スコット・ピルグリム」の根幹には当時のオマリーの生活が色濃く反映されている。トロントに住みゲイのルームメイトがいること、バンドのメンバーであること、アメリカ人の女の子と付き合い始めること、全てオマリーの実人生で実際にあったことだ。しかも、住んでいた近所の街並みや施設等をそのまま漫画に描き、さらに身内や友達をモデルにしたキャラクターまで登場させている。「スコット・ピルグリム」は半自伝的な作品でもあるのだ。「ガールフレンドと付き合うために7人の邪悪な元恋人と戦う」というアイデアも、着想の元になったのは「ガールフレンドがマシューという名前の3人の男性と付き合っていたこと」を知った経験からである。
と、ここまで書くと極めて個人的な作品と思われるかもしれないが、内省的すぎた前作の反省を踏まえてか、とにかく今作ではさまざまなアプローチを駆使しエンタメに振り切った作品になっている。