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『スコット・ピルグリム VS. 邪悪な元カレ軍団』原作から最新作『スコット・ピルグリム テイクス・オフ』まで「スコット・ピルグリム」の歴史大解説 ※注!ネタバレ含みます

(c)Photofest / Getty Images

『スコット・ピルグリム VS. 邪悪な元カレ軍団』原作から最新作『スコット・ピルグリム テイクス・オフ』まで「スコット・ピルグリム」の歴史大解説 ※注!ネタバレ含みます

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エドガー・ライトのこだわり



 「映画とゲームのハイブリッド」のコンセプトをこだわり抜いたエドガー・ライトだが、それ以外にもたくさんのこだわりが本作からは伺える。


 まずはロケ地。原作を読んだことのある人なら、原作で出てきた場所とそのまま同じ光景が完全再現されていることに驚くだろう。前述したように原作の「スコット・ピルグリム」は実際にオマリーがトロントに住んでいた時の家や近所が舞台となっているが、エドガー・ライトは原作のイメージを変えずにそのままの形で映画に持ち込もうとした。ロケ地をニューヨークに変えるという案も出たが、エドガー・ライトはトロントをメインのロケ地にすることにこだわり、原作に描かれた場所で撮影を行なった(まだ脚本の開発中だった2005年に、オマリーと一緒にコミックで描かれた場所にロケハンに出かけるほどだった)。


 「トロントを舞台にした史上最大の映画だ」とプロデューサーのJ・マイルズ・デイルが言うように、バサースト・ストリートやトロント公共図書館、カーサ・ローマ、セント・マイケルズ・カレッジ、セカンド・カップやピザ・ピザの店舗など、有名な観光地から地元の人々が訪れる日常的な場所まで、あらゆるトロントの街並みが映し出されている。トロントの街は本作において第二の主人公と言っていいだろう。


 次に注目するのは演出面。コミックの映画化としては、極北といってよいアプローチを行なっている。なんと漫画の効果音がそのまま字体で出現し、漫画のコマ割りのように画面が分割、書き文字のテロップが出てくるなど、漫画の文法をそのまま映像に落とし込んでいるのだ。さらに、元々アップテンポな作風が特徴的なエドガー・ライトだが、本作はその中でも最もテンポが早い作品と言ってもいいだろう。これには全6巻もある原作を2時間にまとめるという理由もあるが、それ以上に、漫画を読む時のコマとコマを移動する感覚を映画で再現しようとする意図があるようにも伺える。



『スコット・ピルグリム VS. 邪悪な元カレ軍団』(c)Photofest / Getty Images


 この2つから分かるように、エドガー・ライトはあらゆるアプローチを駆使して原作を忠実に再現することに注力している。だからといって、彼の従来の作風が損なわれているわけではなく、むしろ大爆発しているのが大きな魅力の1つだろう。エドガー・ライトといえばタランティーノと肩を並べるほどの映画マニアであるが、『ショーン・オブ・ザ・デッド』『ホット・ファズ 俺たちスーパーポリスメン!』に続き、本作でもまさに映画的としか表現できない演出が数々見られる。シームレスに場面展開する編集に始まり、フレーム外から急に物や人が出てくる演出や、登場人物の心情に合わせた絶妙な効果音や照明の使い方、多くを語らずテンポと画の面白さだけで笑わすギャグなど、エドガー・ライトの持ち味が遺憾無く発揮されている。


 特に要所要所で用いられるワンカットのサプライズ演出が印象的だ。窓を突き破って逃げるシーンや、部屋に入って再び出る数秒の間に全く違う服に着替えているギャグシーン、元カノであるエンヴィーとの電話が始まると、突然何もなかった部屋の壁一面に思い出の写真が現われ、電話が切れると同時に元に戻っているシーンなど、思わず「あっ」と言ってしまうようなワンカットの演出が要所要所で行われる。その中でも、特に白眉であるのが先ほど触れた「大精霊の泉」が流れる場面。スコットが家のトイレに入って用を足して再び出ると、何と学校の廊下に移動しているというのをワンカットで捉えた驚異的なショットを見せつけられる。




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