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『スコット・ピルグリム VS. 邪悪な元カレ軍団』原作から最新作『スコット・ピルグリム テイクス・オフ』まで「スコット・ピルグリム」の歴史大解説 ※注!ネタバレ含みます
2023.12.04
原作進行下での脚本開発
「ジョン・ヒューズがキル・ビルと出会うようなものだ」監督のエドガー・ライトは『ショーン・オブ・ザ・デッド』(04)のプロモーション中に、マーク・プラット・プロダクションズのプロデューサーであるアダム・シーゲルとジャレッド・ルボフから、このような紹介で原作の1巻目のコピーを渡された。原作に魅了され、かつて自身が手掛けたTVドラマ「SPACED〜俺たちルームシェアリング〜」(99〜01)とどこかで通底するものがあると感じたライトは、2005年に映画の共同脚本と監督をする契約を結び、脚本家のマイケル・バコールと共に脚本の執筆に取り掛かった。
この段階ではまだ2巻目までしか出版されていない状態であった為、エドガー・ライトたちは原作者であるオマリーと密に連絡を取り合いながら物語を作り上げていった。両者の関係は良好で、最終的にオマリーは内容のチェックだけに留まらず、キャストの選考から劇中のイラスト、効果音のデザインまで手がけるほど関係値は深まっていった(脚本と原作は同時並行して執筆されたために、映画から原作へ逆輸入された台詞などもあったほど)。
『スコット・ピルグリム VS. 邪悪な元カレ軍団』(c)Photofest / Getty Images
このような形で執筆されていった脚本ではあったが、開発にはかなりの時間がかかり、脚本の草稿が出来上がったのは、2007年の全米脚本家組合ストライキが始まる前日だった(エドガー・ライトはこの間に『ホット・ファズ 俺たちスーパーポリスメン!』(07)の制作を挟んでいる)。この草案の段階では、原作は6冊の本のうち4冊しか出版されておらず、最終巻がまだ執筆されていなかった為、オマリーからアイデアをもらいつつも、エドガー・ライトたちは映画独自のエンディングを用意することとなった。
このような流れで脚本が執筆された本作だが、映画化するにあたり原作から交通整理を図っている部分が数多くある。原作では1年にわたる物語だったのを10日間程度の時間に凝縮し、恋愛関係はスコットとラモーナ、そしてナイヴスの3人の三角関係に絞られて展開する。原作の「マジックリアリズム」的な作風は踏襲しつつも、あまりにも突飛すぎる要素(浮遊している大学やサイボーグのドラマー、電車を刀で叩き切るナイヴスの父親etc)までは描かず、不思議だが絵空事ではない物語としてギリギリの線引きを行なっている。さらに膨大なサブカルチャーの引用がなされている原作から、特にゲームの部分に注目し「映画とゲームのハイブリッド(後述)」という形で構成している。