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『スコット・ピルグリム VS. 邪悪な元カレ軍団』原作から最新作『スコット・ピルグリム テイクス・オフ』まで「スコット・ピルグリム」の歴史大解説 ※注!ネタバレ含みます

(c)Photofest / Getty Images

『スコット・ピルグリム VS. 邪悪な元カレ軍団』原作から最新作『スコット・ピルグリム テイクス・オフ』まで「スコット・ピルグリム」の歴史大解説 ※注!ネタバレ含みます

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圧巻の映像を生み出したアクション・トレーニング



 本作はこれまでのエドガー・ライト作品に比べて、アクションがダイナミックかつ見やすく整理されているのも特徴だ。これはアクション部に、ジャッキー・チェンのスタントチーム「シンガバン」のメンバーだったブラッド・アランが、ギレルモ・デルトロの推薦でスタント・コーディネーターとして参加していることが大きい。香港のアクションといえば、細かくカットを割らずに動きを一連で見せていくのが主流だが、エドガー・ライトは出来る限りキャストにアクションをさせることにこだわった。しかし、ほとんどの俳優たちはアクション経験がなかった為、撮影に入る前に、トロントの巨大な倉庫を拠点にトレーニング合宿が行われることになった。


 毎朝8時から始まるこのトレーニングには「自分がやれないことは俳優にさせない」というポリシーからエドガー・ライトも参加し、何故かアクションがないはずの、キーラン・カルキンやブリー・ラーソン、さらには原作者のオマリーまで参加した(ちなみにバンドのメンバーの音楽練習も同時にこの倉庫で行われた)。この合宿はアクションのトレーニング以上にキャストたちの絆を強めることに貢献し、撮影中の現場の雰囲気は非常に良かったそうだ。クリス・エヴァンスは「これまでの映画出演の中で一番楽しかった」と語っている。このトレーニング合宿を経ることで、マイケル・セラやジェイソン・シュワルツマンといった、それまでアクションの印象がなかった俳優たちが、バリバリに体を動かしてアクションを披露する圧巻の映像が生まれたのである。



『スコット・ピルグリム VS. 邪悪な元カレ軍団』(c)Photofest / Getty Images


 また、映画のテーマにおいてもそのこだわりが伺える。そもそもエドガー・ライトが原作に惹かれた理由でもあるが、テーマ性において他のエドガー・ライト作品と同じモチーフが根底に流れているのだ。「主人公(主に男性)がモラトリアムに対してどう折り合いをつけるのか」である。「SPACED〜俺たちルームシェアリング〜」の擬似カップルを装いながら楽しく生活しつつも将来に不安を感じ始めている漫画家志望のティム、『ショーン・オブ・ザ・デッド』のいい年なのに親友と一緒にダラダラと生活をしていて彼女にも愛想をつかされているショーン、『ワールズ・エンド 酔っぱらいが世界を救う!』(13)の青春時代の思い出に囚われたまま40歳になってしまったゲイリー(『ホット・ファズ  俺たちスーパーポリスメン!』は相棒のニック・フロストがこの役割を担っている)、皆それぞれが「子供以上大人未満」の人物たちで、彼らが成長していく物語をエドガー・ライトは常に描いてきた。定職にも就かず売れないバンドマンとして友人とルームシェアをしているスコット・ピルグリムは、まさにエドガー・ライト的な主人公と言えるだろう。そんなスコットが物語を通して成長していく姿を描くために、原作よりもストレートな成長譚として物語を整理している点からでもテーマのこだわりがわかる。


別エンディングに関して



 映画版は、スコットとラモーナが一緒になることで幕を閉じるが、これは最初から想定されたエンディングではなかった。前述したように、エドガー・ライトと共同脚本家のマイケル・バコールが脚本作りに着手し始めた時、原作は6冊の本のうち2冊目までしか出版されておらず、脚本開発の最終段階でも、原作の最終巻はまだ執筆されていなかった。ゆえに映画独自の終わり方を考えなくてはならなかったのだ。


 彼らが最初に考えたのが『プリティ・イン・ピンク/恋人たちの街角』(86)の逆。つまり地味な方と一緒になるという展開だった。ギデオンとの戦いを経てお互いの相性の良さを再確認したスコットとナイヴス。そんな2人の姿を見たラモーナは、スコットとの恋を諦め旅立ってしまう。場面は切り替わり、再びデートでゲームセンターの「Ninja Ninja Revolution」を遊んでいる2人。冒頭と同じく息ぴったりにPerfectのスコアを獲得し、お互いに見つめ合う。最初は笑顔のスコットだったが、カメラが近づくに連れて笑顔が少しずつ消えていく。「これで本当に良かったのだろうか?」『卒業』(67)のラストシーンのようなビターな終わり方で映画は幕を閉じ得る。これが最初に撮影されたエンディングなのである。



『スコット・ピルグリム VS. 邪悪な元カレ軍団』(c)Photofest / Getty Images


 この展開はテスト試写では賛否両論で、監督自身もこの終わり方に関して「ナイヴスというキャラクターに対して不公平なのではないか」と疑念を抱き始めていた。そこでエドガー・ライトはその悩みをJ・J・エイブラムスに相談したところ、別の結末を一度試してみることを提案され、結果として今の終わり方に変更になったのである。


 この終わり方をナイヴス役のエレン・ウォンに伝えたところ彼女もこの案に大賛成で、撮影が終わった約1年後、劇場公開からわずか3ヶ月前に「ナイヴスの後押しでスコットとラモーナが一緒になる」という今のエンディングが撮り直されたのだ。




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