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『スーパーガール』スーパーマンはなぜ『スーパーガール』に登場しなかったのか?【そのとき映画は誕生した Vol.2】
『スーパーマンIII』の失敗
1981年、アメリカNBCの人気番組「ザ・トゥナイト・ショー」に出演した人気コメディアン、リチャード・プライヤーが、番組の終盤に『スーパーマンII』について熱く語り始めた。それまでにも雑誌「バラエティ」で『スーパーマン』に出たいと語ったことがあり、この高視聴率番組での発言はアピールとして申し分なかった。
NBC「ザ・トゥナイト・ショー」
前述した『スーパーマンIII』のストーリー案が白紙になったことから、製作陣はリチャード・プライヤーを出せば新機軸になるのではないかと考えた。しかし、それは同時にスーパーガールと、ブレイニアック、Mr.ミクシィズピトルクを排除することにもなった。実際、完成した映画では、ブレイニアックに変わってコンピュータがスーパーマンの敵となったが、これはブレイニアックがコンピュータで作られたアンドロイドであるという設定を踏まえたものだろう。
なお、プライヤーはこの時期、映画でロイス・レインを演じたマーゴット・キダーと私生活で恋人関係にあり、この起用に裏工作があったのではないかと見る向きもあった。実際は、リチャード・ドナーを監督から降ろしたことを公に抗議し、製作陣を罵るキダーの存在はうるさいものでしかなかったようだ。事実、『スーパーマンIII』では、初期構想から完成した映画に至るまで、一貫してロイスには端役しか与えられていない。イリヤ・サルキンドによると、スーパーマンと彼女の関係はすでに2作目で行き着くところまで行ってしまったので、新たなヒロインを探す必要があったと言うのだが。しかし、スーパーガールと結婚させようするストーリー案からもわかるように、シリーズが継続してもロイスの存在を薄めようとしていたのは明らかだろう。
1作目で助っ人を買って出たリチャード・レスターは、2作目で監督になったものの、もう3作目の監督をする気はなかった。むしろ、これだけスーパーマン映画の窮地を救ったのだから、そのお返しに、ワーナーが自分の企画に製作費を出してくれるのではないかと期待したが、ビジネスライクな世界には、そのような貸し借りは存在しなかった。オファーの電話に断りを入れた直後、それを聞いていたレスターの妻は呆れ返った。破格のギャラが貰えるというのに、何を考えているのかと一喝されて、レスターは慌てて前言を翻す電話をすることになる。
もし、『ナック』(65)やビートルズ映画を作っていた頃のレスターなら、プライヤーと組めば、革命的な喜劇映画を作っていたかもしれない。実際、「彼(プライヤー)を見てるとすごくジョン・レノンのことが思い出されてね。ふたりとも、出会ったとたんに気になって仕方がなくなる相手なんだ」(「ビートルズを撮った男」)という言葉をレスターは残しているが、『スーパーマン』シリーズのなかで、それを期待することは難しい。
結局、『スーパーマンIII』は、冒頭のレスターらしい大がかりなスラップスティックや、クラーク・ケントとスーパーマンが戦う〈善vs悪〉の場面に見どころはあったものの、巨大コンピュータとの無機質な戦いや、プライヤーの描写に時間を割いた番外編のような奇妙な映画になってしまった。やはり、『スーパーマンII』は、リチャード・ドナーの重厚さと、リチャード・レスターの軽妙さが上手く交わることで生まれた奇跡的なハイブリッド映画だったようだ。