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『スーパーガール』スーパーマンはなぜ『スーパーガール』に登場しなかったのか?【そのとき映画は誕生した Vol.2】

(c)Photofest / Getty Images

『スーパーガール』スーパーマンはなぜ『スーパーガール』に登場しなかったのか?【そのとき映画は誕生した Vol.2】

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スーパーマンとスーパーガールが共演の『スーパーマンIII』とは?



 1980年のカンヌ映画祭では、『スーパーマンII』の完成を告げる広告に、『スーパーマンIII』の製作決定が記されていた。しかし、この時点では、クリストファー・リーヴの出演以外は、まだ何も決まっていなかった。同時撮影された前2作と違い、3作目は何もないところから映画を作る必要があったからだ。


 父とともにこのシリーズをプロデュースしてきたイリヤ・サルキンドは、3作目の製作にあたり、新たな試みに挑もうとした。1980年11月にイリヤによって執筆された『スーパーマンIII』最初期のストーリー案では、スーパーガール、ブレイニアック、Mr.ミクシィズピトルクといった原作ではおなじみのキャラクターが新たに登場することになっていた。では、そのとき構想されていた物語を見てみよう。


 ロイス・レインは、デイリープラネット海外支局への転勤を希望する。スーパーマンとの関係に疲れて距離を置こうというのだ。そのことを知ったクラーク・ケントは落ち込むが、編集部に入ってきた新人記者ラナ・ラングに惹かれていく。


 いっぽう、クリプトン星の爆発時に、スーパーマンことカル=エル以外にもう1人、生存者がいたことが明かされる。それがカーラ・ゾー=エル。力と知性ではクリプトン星人を上回るブレイニアックが棲息する暗く不吉な惑星に漂着した彼女は、ブレイニアックに愛情深く育てられる。彼は成長したカーラに特別な感情を抱くようになるが、それを拒んだ彼女は地球へと逃げ出し、アメリカの小都市で体育教師になる。やがて、街のトラブルをスーパーガールとして解決したことから、その存在をスーパーマンも知るところとなり、対面を果たす。2人は、たちまちのうちに互いの出自を理解して恋に落ち、夜空を共に飛翔する。


 そのころ、ブレイニアックがカーラを探し求めて地球にたどり着く。彼はヨーロッパの古城に居を構え、超能力で彼女の居所をつかみ、スーパーマンの存在も把握する。ブレイニアックが作り出した装置で人格が破壊されたスーパーマンは、スーパーガールと共同で救出活動を行っている最中に突如として暴力的になり、人々を戸惑わせる。この異変はクラーク・ケントのときにも起き、周囲を驚かせる。やがて人々から、スーパーガールがスーパーマンを倒せという声が挙がるようになる。困惑するスーパーガールの前にブレイニアックが現れて取引を持ちかける。自分との結婚に合意しなければ、彼を悪の極地へ誘うというのだ。彼女は要求に応じて姿を消す。


 自らのなかの悪意を倒したスーパーマンは、スーパーガールを探すが、そこに現れた都市を縮小させてコレクションするMr.ミクシィズピトルクと対決することになり、勝利する。そしてブレイニアックと壮絶な戦いを演じるが、力では圧倒的に叶わず、檻に幽閉される。ブレイニアックはスーパーガールを連れてタイムマシンで中世へ向かう。デイリープラネットでは、クラークが失踪したことから、同僚のジミー・オルセンとラナ・ラングが行方を探して古城にたどりつき、スーパーマンを助け出す。3人はブレイニアックを追って中世へとタイムスリップする。


 そこでは、冷酷なブレイニアックが専制君主として君臨しており、3人は捕らえられる。かろうじて脱出したスーパーマンは未来へと戻り、Mr.ミクシィズピトルクと取引して協力を求める。2人は再び中世へと向かい、Mr.ミクシィズピトルクが町全体を縮小して別次元に送る。その世界では、誰も超能力を発揮できない。スーパーマンとブレイニアックは、中世の騎士のように鎧をまとって馬に乗り、最後の戦いに挑む。戦いに勝利したスーパーマンたちは現代に帰るが、Mr.ミクシィズピトルクがメトロポリスを縮小して巨大なパズルにしてしまい、1分以内に解かなければ、このパズルを自分のコレクションに加えると言う。スーパーガールの助けを借りながらパズルを解いたスーパーマンは、メトロポリスと人々を救い出すことに成功する。なお、イリヤは、このストーリー案のラストに、本作、または『スーパーマンIV』でスーパーマンとスーパーガールの結婚が描かれることになると記している。


 公開された『スーパーマンIII 電子の要塞』(83)を観れば、この初期構想のまま映画化した方が良かったのにと思うかもしれない。あるいは、スーパーマンが善悪に別れる設定が、すでにこの時点で存在していたことを興味深く思うかもしれない。映像化された作品のなかでスーパーマンとスーパーガールが共演するのは、TVシリーズ「ヤング・スーパーマン」まで実現しなかったことを思えば、この幻の『スーパーマンIII』が、画期的な1本になったことは間違いない。


『スーパーマンIII 電子の要塞』予告


 それにしても、スーパーマンとスーパーガールを、従来の〈いとこ〉ではなく、〈恋人〉に変更したのは驚かされる。2人が空を一緒に飛翔するシーンは、1作目のスーパーマンとロイス・レインが空を舞う名場面に匹敵すると思わせるが、養父的存在であるブレイニアックのスーパーガールへの恋愛感情も含めて、はたしてこの設定が観客の理解を得られたかどうか。


 イリヤによって提案されたこのストーリー案は、本シリーズの配給権を持つワーナー・ブラザーズばかりか、父のアレクサンダー・サルキンドからも受けが悪かったようで、否決されてしまう。理由はSF的すぎることに加えて、映画から入ってきたライト層には説明しなければならない要素が多すぎると見なされたからだ。実際、スーパーガールはともかく、ブレイニアックは原作から逸脱する要素も多く、Mr.ミクシィズピトルクも実写で描くには難易度が高いキャラクターであり、終盤のメトロポリスをジグソーパズル化してしまう展開にしても、現在ならば容易な映像表現でも、1980年代初頭では、どれほどの映像にできただろうか。


 何より問題となったのは、これまでのシリーズの世界観から様変わりする〈タイムスリップ〉である。1作目で時間をいじった前科があるとはいえ、中世と現代を行き来する設定は混乱を来す恐れがある。前述のストーリー案を読んでもわかるが、後半はかなりバタバタした展開である。しかし、このストーリー案は、形を変えながら『スーパーマンIII 電子の要塞』と『スーパーガール』へ継承されていくことになる。




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