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『スーパーガール』スーパーマンはなぜ『スーパーガール』に登場しなかったのか?【そのとき映画は誕生した Vol.2】

(c)Photofest / Getty Images

『スーパーガール』スーパーマンはなぜ『スーパーガール』に登場しなかったのか?【そのとき映画は誕生した Vol.2】

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スーパーガールは、ブルック・シールズか、デミ・ムーアか?



 スーパーマンが登場しない脚本へのリライトが進む一方で、キャスティングも始まっていた。アレクサンダー・サルキンドがスーパーガール役に推薦したのは、子役出身で当時『青い珊瑚礁』(80)、『エンドレス・ラブ』(81)が相次いでヒットし、若手女優として注目をあつめていたブルック・シールズだった。


 後に新聞連載漫画の映画化『ブレンダ・スター』(89)で主人公を演じたように、彼女は風貌からしてコミックスの世界と相性は良く、当時17歳のシールズは、スーパーガール役に最も相応しいと思われた。しかし、この人選に反対したのが、息子のイリヤ・サルキンドだった。『スーパーマン』でクリストファー・リーヴを発見したように、手垢のついた俳優ではなく新人から発掘すべきと主張したのだ。


 イリヤの考えに賛同したのは、監督のヤノット・シュワルツだった。スーパーガールに必要な条件は、キャリアのある俳優ではなく、〈優雅に飛行〉できる人材だと考えていた。そのために撮影前の数か月をハードなトレーニングに充てる必要があったため、それに耐えられるワガママを言わない俳優を求めていたこともあって、無名の新人案に賛同したのだ。ロンドン、ロサンゼルスでオーディションが行われていくなかで、シュワルツがこれぞと見初めた1人に、デミ・ムーアがいた。若さと声が際立ち、スーパーガール役が無理でもルームメイト役で起用したいと伝えたが、ムーアは同時期にスタンリー・ドーネン監督の『アヴァンチュール・イン・リオ』(84)に大役で抜擢され、起用は叶わなかった。


 クリストファー・リーヴと同じく、ニューヨークのオーディションで見出されたのがヘレン・スレイターだった。演劇学校のパフォーミング・アーツ出身で、チューインガムのCMに出演したりしながらオーディションを受ける日々を送っていた彼女の存在は、審査で際立つものがあった。オーディションでは、まずスーパーガールの地球上の名前であるリンダ・リーの演技から見せることになったが、このとき彼女は、リンダ=スーパーガールとは知らないまま演技を披露していたという。髪をアップにしてメガネをかけ、自分で考えたイメージで外観をつくり、演技に挑んだ。続いてスーパーガールを演じるときは、慌てて購入したレオタードにマントをつけるという凝りようで、このときプロデューサーも監督も、彼女がスーパーガールであると信じるに足る存在感を持っていることを確信した。


 こうして600人のなかから選出されたヘレン・スレイターは、イギリスのパインウッド・スタジオで行われるテスト撮影に挑むことになった。ちょうど『スーパーマンIII』の撮影と重なっており、リーヴとの対面も実現した。このとき撮影されたテストフィルムを見ると、スーパーガールの衣装を着た彼女は赤いバンダナを巻き、胸の“S”のマークが前掛けのようになっている。これは80年代当時の原作に沿った衣装だが、テスト用の非公認コスチュームで、最終的にはDCコミックスとワーナー・ブラザーズの監修のもとで、初めてコミックに登場した頃に近いスタイルへ戻すことになり、オーソドックスなコスチュームのスーパーガールが誕生した。



『スーパーガール』(c)Photofest / Getty Images


 こうしてテストも無事に終了し、撮影開始を待つばかりとなったが、ニューヨークに帰ったスレイターは、『スーパーマンIII』の撮影を終えたリーヴとプライヴェートで会う時間を持つことができた。ランチのあと、セントラルパークのベンチに2人が座っていると、パトカーや消防車がサイレンを鳴らして通り過ぎていった。するとリーヴが、「ここにスーパーマンとスーパーガールが座っているのに、僕たちは何もできないんだ」と呟いたことを、スレイターは今も記憶している。


 主人公が決定すると、それ以外のキャスティングも始まり、『スーパーマン』と同じ方法が踏襲されることになった。主人公のヒーローは新人、その親や敵対する悪役は大物俳優で固めるという方式である。したがって、マーロン・ブランドやジーン・ハックマン級の大物を引っ張り出す必要があった。まずは、マーロン・ブランド枠に、『アラビアのロレンス』(62)のピーター・オトゥール。彼が演じるのは、クリプトン星の生き残りの人々が暮らすアルゴ・シティの彫刻家ザルター。この星を維持する源であるオメガヘドロンを拝借して芸術作品を作っていたところ、カーラ(ヘレン・スレイター)が誤って宇宙の彼方へ飛ばしてしまい、彼女がそれを取り戻すために地球へ向かうきっかけとなる。映画の後半、悪人が追放されるファントムゾーンへ送られたスーパーガールは、自らを罰するためにそこへ来ていたザルターと再会し、共に脱出しようとする。


 ジーン・ハックマン枠にあたる世界征服を企む魔女セレナには、フェイ・ダナウェイ。彼女の起用は意外にも思われた。というのは、サルキンド親子は、リチャード・レスター監督で製作した『三銃士』(73)、『四銃士』(73)の撮影で、彼女に振り回された経験があったからだ。毎日必ず一時間遅れて撮影現場に来て、それからメイクが始まるので、早撮りのレスターといえども手を焼かされた。撮影中も、ダナウェイは乱闘相手のラクエル・ウェルチを大理石の床に投げ飛ばしたりと、傍若無人な振る舞いを見せていた。そもそも、『スーパーガール』の悪役を彼女が引き受けるかどうかも未知数だったが、意外にも快諾した。どうやら彼女は、『スーパーマン』でレックス・ルーサーを演じたジーン・ハックマンに刺激されていたようなのだ。「ジーンって、とっても楽しそうに演じていたでしょう。私も、ああした楽しい演じかたをつかみたかったの」(「キネマ旬報」1984年7月下旬号)と、ダナウェイは語っている。


 スーパーガールの母親には、『ローズマリーの赤ちゃん』(68)、『カメレオンマン』(83)のミア・ファロー。そして、唯一の『スーパーマン』シリーズからの出演に、ジミー・オルセン役のマーク・マクルーア。当初の脚本では、最初にスーパーガールを目撃するのが彼だった。スーパーマンとよく似た彼女を「スーパーマンの妹なのか?」と口にすることになっていたが、結局、劇中にスーパーマンは登場しないことになり、2つの世界をつなげる役割りを果たしたはずのジミーの存在は、中途半端な扱いになってしまった。




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