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『スーパーガール』スーパーマンはなぜ『スーパーガール』に登場しなかったのか?【そのとき映画は誕生した Vol.2】
棄てられた『スーパーガール』
撮影が終わって編集作業が進むなか、公開時期をめぐって、サルキンド親子とワーナー・ブラザースで意見の相違が生じた。サルキンド側は、1984年末のクリスマス・シーズンの公開を主張したが、ワーナーは同年7月しか枠が空いていないという。だが、サルキンドとしては何としてもこの時期の公開は避けたかった。
1984年7月――それはロサンゼルスオリンピックの開幕時期である。この年の北米興行ランキングを見ても、1位『ゴースト・バスターズ』(6月8日公開)、2位『インディ・ジョーンズ 魔宮の伝説』(5月23日公開)、3位『グレムリン』(6月8日公開)、4位『ベスト・キッド』(6月22日公開)、5位『ポリスアカデミー』(3月23日公開)と、7月公開の映画はランクインしていない。大ヒットを狙う映画は7月を避けるのが常識だった。
しかし、『スーパーマン』『スーパーマンII』の頃ならば、サルキンドの要求は通っただろうが、『スーパーマンIII』の失敗で、そのパワーは衰えていた。ワーナーは、スーパーマン・ブランドに魅力を感じなくなっていたのだ。それに『スーパーガール』のテスト試写の反応が芳しくなかったことも、事態を悪い方向へ向かわせた。これまでのシリーズで直接描かれなかったファントムゾーンが見事に映像化され、ジェリー・ゴールドスミスのテーマ曲も、『スーパーマン』シリーズに採用されていてもおかしくない完成度だったが、プロデューサー陣は、本作の魅力を掴みそこねていたようだ。やがて業界内では、「『スーパーガール』は捨て映画だ」という風評が流れ始める。
映画を修正するために、観客の反応をもとにテスト試写版の138分を再編集して126分のバージョンを作ったサルキンドは、このバージョンをインターナショナル版として先に海外で公開することを決める。日本でも1984年7月14日に公開されたものの、海外先行公開が、いっそう本国に危機感を伝える結果になった。
コロンビア・ピクチャーズの子会社であるトライスターピクチャーズによって、1984年11月に全米公開されたものの、アメリカではさらに短縮された105分バージョンでの上映となり、冒頭のアルゴ・シティ、湖畔で水中バレエのように空を舞うシーン、女学院の学内エピソード、町の描写等々が短縮され、ストーリーの大勢に影響しない多くのシーンが削除された。
しかし、これらのストーリーの進展に関係しないシーンこそは、『スーパーガール』の最も魅力的な部分ではないだろうか?スーパーマンとは異なる飛翔シーンの鮮やかさはたっぷりと見せなければ伝わらないし、学校内でいじめに反撃したり、授業に超能力を使ったりする生活描写こそが、『スーパーガール』の独自性なのである。他愛もないと言ってしまえばそれまでだが、この短縮化は、青春ファンタジー映画としての魅力を削ぐことになった。事実、公開1週目こそ1位を獲得したものの、興行的には『スーパーマンIII』を大幅に下回ることになり、惨敗を喫する。そして、3部作のシリーズ化構想は破棄され、この1本のみで打ち切りとなった。
『スーパーガール』予告
なお、2018年には本作の「ディレクターズ・カット」(138分)を収録したブルーレイが米国盤のみながら発売されている。全体的に各シーンが長くなっており、本来の意図をじっくりと味わうことができるようになっており、本作のファンには一見を勧めたい。
イリヤ・サルキンドは後に、スーパーガール役は、やはりブルック・シールズを選ぶべきだったと発言している。彼女の方が男性観客を動員できたというのが、その理由である。たしかに彼女が演じていれば、男性客の満足度は高かったかもしれないが、筆者はヘレン・スレイターを選んだ判断が間違っているとは思わない。スレイターが性差に関係なく支持されるスーパーヒロインであることは、可憐さを併せ持ちながら堂々たる存在感を見せる姿からも納得できるはずである。その輝きは、筆者が幼少期に観た初見時から38年後の現在も変わらず、クリストファー・リーヴにも劣らない。
そして、リーヴがTVシリーズ「ヤング・スーパーマン」に博士役で出演したように、スレイターも同シリーズで、スーパーマンの実母ラーラ・エルを演じ、2015年にCBCで始まったTVシリーズ「SUPERGIRL/スーパーガール」では、スーパーガールの養母イライザ・ダンバース博士役で出演しており、今やスーパーマンとスーパーガールの母として、神話性をまとった存在になっている。
冒頭に記したように、来年公開の『ザ・フラッシュ』で、スーパーガールは39年ぶりにスクリーンに再登場する。演じるのは400人のなかから選ばれたサッシャ・カジェ。ここから、単独シリーズとして再起動できるかどうか、『スーパーガール』の不幸が繰り返されないことを祈りたい。そして、今度こそスーパーマンと共にスクリーンを飛翔してくれる姿を見たいものだ。
本稿を脱稿後、『マン・オブ・スティール』(13)他でスーパーマンを演じたヘンリー・カヴィルが、DC映画でスーパーマン役に復帰することが発表された。
【参考文献】
「キネマ旬報」「スクリーン」「映画情報」「映画撮影」「週刊明星」
『SupermanIII』脚本、『Supergirl』プロット、『Supergirl』脚本
『スーパーマンIII 電子の要塞』劇場パンフレット、『スーパーガール』劇場パンフレット
「スーパーマン 真実と正義、そして星条旗と共に生きた75年」(ラリー・タイ著、久美薫 訳、現代書館)
「ビートルズを撮った男 リチャード・レスター」アンドリュー・ユール著、島田陽子・訳、プロデュースセンター出版局)
「バートン オン バートン―映画作家が自身を語る」(マーク ソールズベリー編、遠山純生・訳、フィルムアート社)
「Superman vs. Hollywood」Jake Rossen , Mark Millar (Foreword)、Chicago Review Pr
https://meatfighter.com/superman3/part4/s3_original_idea.pdf
https://screenrant.com/superman-3-original-plan-story-not-happen-reason/
https://13thdimension.com/director-richard-donner-talks-supermans-legacy/
https://maidofmight.net/film/interview-with-supergirl-director-jeannot-szwarc/
https://www.supermanhomepage.com/movies/movies.php?topic=interview-helenslater2
https://comicbookmovie.com/batman/batman-a-retrospective-of-tom-mankiewicz-unfilmed-script-a21031
https://indiegroundfilms.files.wordpress.com/2014/01/batman-jan-10-84-2nd-tom-mankiewicz-version.pdf
『スーパーマン モーション・ピクチャー・アンソロジー スペシャル・バリューパック』Blu-ray(ワーナー・ブラザース・ホームエンターテイメント)
『スーパーガール スペシャル・エディション』DVD(ジェネオン エンタテインメント)
『Supergirl (1984)』 Blu-ray(Warner Archives)
1978年生。映画評論家。『映画秘宝』『キネマ旬報』『映画芸術』『シナリオ』等に執筆。著書に『映画評論・入門!』(洋泉社)、共著に『映画監督、北野武。』(フィルムアート社)ほか
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