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『スーパーガール』スーパーマンはなぜ『スーパーガール』に登場しなかったのか?【そのとき映画は誕生した Vol.2】
スーパーガールを飛翔させるには?
ヤノット・シュワルツ監督は、この映画に最も重要なことは、〈飛翔させること〉だと考えていた。『スーパーマン』日本公開時のコピーが「あなたも空を翔べる!」だったように、観客にスーパーガールが翔ぶことを信じさせることが、映画を成功させる最重要なポイントだと考えたのだ。そこで、『スーパーマン』のリチャード・ドナー監督に相談すると、「ロイ・フィールド、デレク・メディングス、デビッド・レーンに相談しろ」というアドバイスが返ってきた。ロイ・フィールドは、シリーズの視覚効果を担当してきた第一人者。デレク・メディングスは007シリーズも手がけてきた特撮監督。デビッド・レーンは飛行シーンを中心にB班監督を務めた人物。まさにスーパーガールを飛翔させるためには欠かせないスタッフたちだった。
彼らの協力を得ながら、シュワルツはこれまでとは異なる飛翔の表現を模索することにした。その理由をこう語る。「クリストファー・リーヴの飛び方は完璧といっていい。たくましいし、雄々しい。人間が本当に飛べるとしたならば、おそらく彼の飛び方は模範といっていいものだと思う。でも、こちらは女性。体重も少ないし、男性ではない飛び方ってものがあるはず」(前掲「キネマ旬報」)
そうして新たな技術開発を行うなかで、かつての水中レビュー映画のようにスーパーガールの飛翔を見せようと考えた。『世紀の女王』(44)、『水着の女王』(49)などでエスター・ウィリアムズが魅せた水中演技を応用しようというのだ。それが最も効果的に反映されたのが、スーパーガールが地球に初めて降り立つシーン。水中から地上へと現れた彼女は、初めて目にする草木や大気に感動し、その高揚感が身体を浮遊させ、滑らかで気品あふれる飛翔を見せる。それは、まるで水中バレエのように見える。
『スーパーガール』(c)Photofest / Getty Images
シュワルツは、水中からスーパーガールが現れるカットにもこだわった。実際にヘレン・スレイターを湖に沈めてからワイヤーで引っ張り上げると、濡れ鼠のようになってしまう。逆回転で撮影しても、水滴でバレてしまう。何週間も検討の末にたどりついたのは、スレイターの写真を等身大で撮影し、そこに撥水処理を行って、木にマウントさせるというアナログな方法である。水を弾いた等身大写真を水中から引き上げることで、このカットを成立させたのだ。
それにしても、両手を広げながら風を受けて翔ぶ数々の場面の美しさは、『スーパーマン』に勝るとも劣らない。事実、後に『スーパーマン4 最強の敵』(87)を監督するシドニー・J・フューリーは、リチャード・ドナーにスーパーマンの飛翔について助言を乞うと、ドナーは「俺に訊くよりヤノット・シュワルツに相談しろ」と言ったという。本作の飛翔がいかに画期的だったかを示すエピソードである。
もっとも、演じるヘレン・スレイターの負担は大きい。なにせロケーションでは、ベルトを巻いてクレーンで宙吊りにされていると、スタッフの操作ミスで大木に激突したり、水面ギリギリを翔ぶはずが水中に落ちたりと、危険な撮影が続いた。セットで撮影する日も、体中にワイヤーを装着し、スタッフ70人がかりで操演されることになる。終日宙吊りにされるだけに、撮影後は1時間ほどマッサージを受けなければ疲労困憊して動けなかったという。まさに肉体労働そのものである。こうした撮影に備えるための事前トレーニングは半年近くに及び、スレイターは基礎体力をつけ、エアロビクス、トランポリン、水泳、重量上げ等をこなしていた。さらに、スーパーガールを演じるには華奢であることから、体重も6キロ増やして厚みをつけたという。