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『スーパーガール』スーパーマンはなぜ『スーパーガール』に登場しなかったのか?【そのとき映画は誕生した Vol.2】

(c)Photofest / Getty Images

『スーパーガール』スーパーマンはなぜ『スーパーガール』に登場しなかったのか?【そのとき映画は誕生した Vol.2】

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クリストファー・リーヴは、なぜ『スーパーガール』から降板したのか



 正式な契約はまだ結んでいなかったものの、クリストファー・リーヴは『スーパーガール』への出演を承諾し、スーパーマンとスーパーガールが最初に地球で会う場面へのアイデア出しを行うなど積極的な姿勢を見せていた。本作の監督には当初、サルキンド親子によって『ウエスト・サイド物語』(61)、『スタートレック』(79)などの名匠ロバート・ワイズ監督にオファーされたが、ワイズは辞退した。そこで、リーヴは『スーパーマン』シリーズの合間に出演したSF恋愛映画『ある日どこかで』(80)のヤノット・シュワルツ監督ならば、ファンタジー演出に申し分ないと推薦した。


 『ある日どこかで』は、『スーパーマン』シリーズの撮影にも影響を及ぼした作品だった。『スーパーマンII』で、クラーク・ケントとロイス・レインがナイアガラへ取材に行き、そこからスーパーマンがロイスを連れて北極へ向かう一連のシーンは、リーヴの希望で撮影が後回しにされていた。というのも、リーヴは、この撮影が終わると、すぐに『ある日どこかで』に参加することになっていたが、スーパーマン役が抜けないまま次の現場に入ると、主人公の劇作家役が荒っぽいものになりはしないかと恐れた。そこで、ロイスとのラブシーンを最後に撮れば、スムーズに役を移行できると考えたのだ。


 サルキンド親子が映画監督に求める第一の条件は、ヒット作を作ることが出来るかどうかにかかっていた。したがって、監督の選出作業は、興行成績リストの参照から始まる。それでいえば、ヤノット・シュワルツは、最新作となる『ある日どこかで』は後年カルト的な人気を博したものの公開時はヒットとはならず、基準には合致しない。だが、その前作は大ヒットを記録していた。『ジョーズ2』(78)である。ジョン・D・ハンコックの監督で撮影に入ったものの現場が混乱を来たし、代打監督として急遽登板したのがシュワルツだった。若き日のスティーヴン・スピルバーグが監督した前作『ジョーズ』(75)には敵わなくとも、続編としては手堅い完成度で観客を満足させ、混乱した大作映画の現場を統括した手腕は、サルキンド親子の眼鏡に充分かなう存在だった。


『ジョーズ2』予告


 シュワルツは、『スーパーガール』の監督を依頼してきた電話に、人違いだと思ったという。リチャード・ドナーとも親しいシュワルツにとって、スーパーマン映画は、ドナーのような剛腕タイプの演出家が相応しいと感じていただけに、自分にお鉢が回ってくるとは思っていなかったからだ。打ち合わせにロンドンへ向かうと、すでに検討用の脚本が出来上がっていた。『ダーク・クリスタル』(82)で異世界ファンタジーを巧みに作り出したデヴィッド・オデルが担当した脚本は、イリヤ・サルキンドの意向が強く反映されたもので、前述の『スーパーマンIII』初期ストーリー案を発展させた内容になっていた。敵キャラにはブレイニアックが登場し、地球だけでなく、クリプトン星をはじめ複数の惑星が舞台となるスケールの大きな内容だった。


 この初期案では、スーパーマンは、スーパーガールが地球に降り立ったところを出迎えて力の使い方を教える存在だった。一緒に空を翔ぶ場面も盛り込まれていたが、やがてブレイニアックによってスーパーマンは年老いた姿に変えられ、山の頂の城に幽閉される。そして舞台は惑星に移り、戦いに勝利したスーパーガールが地球に帰ってきて解放するという、この映画を動機づけて進展させるためのマクガフィンの役割をスーパーマンは担っていた。この構成ならば、スーパーマンは冒頭と結末部分に顔を出すだけで良く、大部分は囚われの身となっており、しかも獄中では年老いているのだから、リーヴが演じる必要もない。それでいて彼を救出することが物語の中心となって進行するのだから、スーパーマンを利用しつつ、スーパーガールを活躍させることが可能な内容になっていた。


 もっとも、この初期構想は、あまりの壮大な世界観に製作費が追いつかず、地球のみを舞台にする現実的な路線へと改変されることになった。しかし、それ以上に映画の成否を揺るがす大きな事件が発生する。重要なキャラクターが相次いで消えてしまったのだ。


 製作準備が進むなか、突然、リーヴが「この映画に自分がいるのはおかしい」と言い出した。スーパーマンがスーパーガールと出会い、リーヴがシュワルツと出会ったことで『スーパーガール』は独自の魅力を放つ映画として生まれようとしていただけに、この申し出は、いささか唐突に見えた。『スーパーマンIII』の撮影を終えて失敗作であることを悟り、これ以上はスーパーマンに関わるべきではないと考えたのか、あるいは『スーパーガール』が当初の構想から縮小していくことに気づいて身を引くべきと考えたのかもしれない。


 結局、劇中でスーパーマンは、スーパーガールと入れ違いに「平和の使者として数百兆光年のかなたへと飛び立ちました」とカーラジオで報じられるだけで姿は見せない。スーパーガールがクラーク・ケントのいとことして女学院に入学し、偶然にもデイリープラネットに務めるロイス・レインの妹(!)ルーシーとルームメイトになり、部屋に貼ってあるスーパーマンの写真を羨望の面持ちで眺める場面に登場するだけである。


 さらに、ワーナー・ブラザーズからは、『スーパーマンIII』初期ストーリー案への反応とおなじく、ブレイニアックの設定について注文が入り、省くように要求してきた。それにしても、映画化されるたびに名前が挙がるブレイニアックには不幸な運命がつきまとう。『スーパーマンIII』『スーパーガール』だけでなく、1998年に公開が予定されていたニコラス・ケイジがスーパーマンを演じる予定だったティム・バートン監督の『Superman Lives』(製作中止)にも登場予定だったし、『スーパーマン リターンズ』(06)、『マン・オブ・スティール』(13)の続編企画でも登場が検討されていた。


 こうして、スーパーマンとブレイニアックという大きな存在を失った『スーパーガール』は、新たに構築しなおす必要に迫られた。




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