(C)2017 Twentieth Century Fox Home Entertainment LLC. All Rights Reserved.
『ミクロの決死圏』60年代『2001年宇宙の旅』以前、群を抜くクオリティの傑作SF (前編)
CMDF本部の描写
プロダクションデザイナーの一人は、ベテラン美術監督のジャック・マーティン・スミスである。彼は1935年にMGMに入社し、『オズの魔法使』(39)や『ジーグフェルド・フォリーズ』(45)、『イースター・パレード』(48)など、華やかなミュージカルのセットを数多く手掛けてきた。そして1956年に20世紀フォックスへ移籍し、『回転木馬』(56)や『クレオパトラ』(63)などを担当している。
彼がもっぱら担当したのは、CMDF本部だった。グラントが、地下に設けられた秘密の施設に入り、司令室まで向かう過程で、広大な本部全体の様子が垣間見える。こういったシーンは、冷戦期に作られたSF映画/テレビ番組には定番の表現で、男子が本能的に持っている“秘密基地願望”を猛烈にくすぐってくれる。
ただし、20世紀フォックスのサウンドステージでは表現できなかったため、ロサンゼルスのスポーツアリーナを5日間借りてロケセットを設置した。ただし撮影監督のアーネスト・ラズロは、これだけ広い空間のライティングには苦労させられ、柱の裏やアルコーブ(壁面のくぼみ状の部分)に照明器具を隠すことで解決させた。
『ミクロの決死圏』(C)2017 Twentieth Century Fox Home Entertainment LLC. All Rights Reserved.
サウンドステージに造られたCMDF本部のセットも、91m×30mの大規模なもので、縮小室、滅菌室、手術室、レーダー室、トラッキング室、コンピュータールーム、会議室など、総額125万ドルの費用を掛けて建設された。また、これらの部屋に収められた各種医療機器の貸借料30万ドルや、コンピューターの使用料30万ドルが別途必要となっている。
このCMDF本部の各所に置かれたコンソールには、本物のビデオモニターが付いている。当たり前のように思うかもしれないが、当時これはかなり画期的なことだった。
実はこの映画以前では、セットの裏に16mmのフィルム映写機を仕込んで投映したり、後からオプチカル合成でハメ込むといった方法が採られていた。なぜなら、アメリカ(及び日本)のテレビで用いられているNTSC方式の場合、画像は毎秒60フィールド/30フレームという形式で記録・表示される。これをフィルムの毎秒24フレームで撮影すると、同期が合わなくてフリッカーやシマ模様が発生してしまうのだ。
そこで20世紀フォックスと英マルコーニ社は、75万ドルをかけて研究プロジェクトを立ち上げ、毎秒24フレームで撮影可能なテレビカメラを4台製作した。この映像はムービーカメラに同期して、12台のビデオモニターに表示されている。
この後20世紀フォックスは、様々な映画やテレビドラマにこのシステムを活用し、投資を回収していくことになる。だが、当時のカラーネガの最高感度はASA100しかなかったため、スタジオの照明にモニターの輝度が負けてしまう問題があり、カメラマンを泣かせたという。