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『ミクロの決死圏』60年代『2001年宇宙の旅』以前、群を抜くクオリティの傑作SF (前編)

(C)2017 Twentieth Century Fox Home Entertainment LLC. All Rights Reserved.

『ミクロの決死圏』60年代『2001年宇宙の旅』以前、群を抜くクオリティの傑作SF (前編)

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体内のプロダクションデザイン



 人体内のデザイン(*2)を担当したのは、もう一人の美術監督であるデール・ヘネシーだ。代表作には、『ヤムヤム・ガール』(63)や『ちょっとご主人貸して』(64)といったコメディがある程度で、このような超大作への抜擢は、プロデューサーの英断だった。もしかすると、ノンクレジットで参加している、『王様と私』(56)や『南太平洋』(58)における、コンセプトアートの仕事が評価されたのかもしれない。


 この映画以前には、人体組織を内側からの視点で描いた映像は存在しておらず、非常に難しい仕事だったと思われる。参考になるものとしては、解剖写真やそこから起こされたイラスト(*3)、各種臓器の模型、組織の電子顕微鏡写真(モノクロ)、染色された切片の透過顕微鏡写真などぐらいである。


 ヘネシーはこれらの資料を基にして、約500万倍に拡大された体内世界の、膨大な量のコンセプトアートを描いた。


 筆者は、長年こういう科学系CGの仕事をやっていたから、実感として理解できるが、そう簡単なことではない。「光はどこから、どのような色で入って来るのか」とか、「カメラをセッテイングし、芝居をするような空間はあるのか」などの映画的要素は当然として、「グロテスクにならない範囲での科学的正確性と、抽象的デザインのバランス」や、「登場人物たちが現在体内のどこにいるかを視覚的に分からせる、特徴的な形状デザインと造形素材の選択」など、未知の領域を開拓した仕事には本当に頭が下がる。


 これが、科学ドキュメンタリーの解説映像などの場合、分かりやすく模式化したデザインが許されるが、本作のようなケースではそれもできない。だからリアリティの塩梅を見極めるのが、プロダクションデザイナーのセンスが要求される所だ。


『ミクロの決死圏』(C)2017 Twentieth Century Fox Home Entertainment LLC. All Rights Reserved. 


 実際、現実の体内組織は、ほとんどが体液やコラーゲンなどで満たされているし、そこに届く光もわずかであるから、けっして遠くまで見渡すことはできない。だからと言って、人間が小さくなって未知の世界を探検する雄大さが描けなければ、映画としての面白さは失われてしまう。


 本作の公開時は、ワイドスクリーン全盛期の中頃で、世界中のロードショー館はスクリーンのサイズや視野角を競っていた。だからシネマスコープ画面の隅々まで、パノラミックに光景が拡がっているというのは、この時代の娯楽映画としての重要な要素であり、内視鏡で撮影したようなリアリズムは必要とされなかったのである。


 そして、プロジェクトの初期段階からラズロが参加し、ヘネシーとセットの材質について話し合っている。ラズロのアイデアは、グラスファイバーやアクリル樹脂など、無色の半透明素材でセットを構築するというものだった。その理由は、ペンキで直接塗装してしまうと、生体組織の雰囲気が死んでしまうからで、そのためライティングで着色することにより回避できると判断されたのだ。ラズロは赤系だけでなく、青、シアン、紫、緑、黄などと、身体の部位ごとに照明の色調を変えることで、画面が単調になることを避けている。


*2 人体内のデザインに関しては、サルバドール・ダリが担当したというデマ情報が広まっている。これは、映画のプロモーション用アートの制作が、ダリに依頼されたことから生まれた誤解だ。彼は、『Fantastic Voyage』(映画の原題)という絵画(ガッシュ、水彩)を1965年に描いており、右下に小さくラクエル・ウェルチをモデルにした女性が描かれているが、映画のイメージとは大きくかけ離れていた。原画はアートコレクターのホセ・ムグラビが所有しており、現在もリトグラフが購入可能


*3 実は、こういったイラストがけっこう当てにならない。筆者は1988年に、EXPO90におけるIMAX 3D用CG制作作業の一環として、筋肉細胞に関する膨大な量の書籍を調べたことがある。そして、それらに掲載されているイラストをコピーして並べてみると、「この絵はここからの引き写し…」といったことが追跡できた。結果として、人間の筋原線維とされていた図が、元はウサギのものだったということが分かり、間違いを繰り返さずに済んでいる。結局資料用に、新しく顕微鏡写真を撮影してもらう所から始めることにした。




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