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クリストファー・ノーラン監督作品まとめ 突き抜けた作家性とメガヒットを両立させる鬼才
11.『TENET テネット』(20) 151分
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ノーラン監督の長年のテーマである「時間」を、彼が愛してやまないスパイ映画の文脈で描いた壮大なSFサスペンス。「逆行」をキーワードに、第三次世界大戦を阻止するべく前代未聞の任務に身を投じる者たちの闘いを描く。
冒頭、コンサートホールがテロリストに占拠されて全員が眠らされる中で銃撃戦が勃発→主人公が“逆行現象”を目撃して驚愕する衝撃的な展開に始まり、時間の順行と逆行がミックスされたカーチェイスや肉弾戦など、見たこともないような映像表現(それをアナログで行う狂的なこだわり)と難解なストーリーの合わせ技で、観た者の中で考察合戦が加速した。
『ブラック・クランズマン』(18)のジョン・デヴィッド・ワシントンと、ロバート・パティンソンが初タッグを組み、エリザベス・デビッキ、ケネス・ブラナー、マイケル・ケインらが脇を固める豪華仕様。作曲は長年組んできたハンス・ジマーに代わり、『ブラックパンサー』(18)で頭角を現したルドウィグ・ゴランソン、編集はノア・バームバック監督やアリ・アスター監督の作品を担当してきたジェニファー・レイムを抜てき。キャスト・スタッフ共に新たな風を入れた挑戦作といえるだろう。
本作はコロナ禍真っ只中で劇場公開され、劇場が閉鎖されるなどのあおりを食うなか特に日本で大健闘。敬意を表し、東京・池袋のグランドシネマサンシャインにノーラン直筆の感謝状が届いたことも話題を集めた。
もっと詳しく:『TENET テネット』回文タイトルが暗喩するノーランの創造的ターン ※注!ネタバレ含みます。
12.『オッペンハイマー』(23) 180分
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盟友キリアン・マーフィーを主演に迎え、「原爆の父」と呼ばれる科学者オッペンハイマーの半生を描いた伝記映画(実在の人物を描いた伝記映画としては歴代1位のヒットを記録)。落ちこぼれだった大学時代、科学者として覚醒し責任者に抜てきされた約3年間に及ぶ原爆開発プロジェクトの開発秘話、大量破壊兵器を作ってしまった“苦悩”、共産主義との関わりを問われるその後の歩みが、過去と現在という“時間”を行き来する構成で描かれる。
これまで組んできたワーナー・ブラザースと決別し、ユニバーサルと組んだ初の作品。ノーラン史上最も豪華といっていいキャストが勢揃いし、マット・デイモンやケイシー・アフレック、ケネス・ブラナーらに加えてロバート・ダウニー・Jr.、エミリー・ブラント、フローレンス・ピュー、ラミ・マレック、デイン・デハーン、ベニー・サフディといった多彩な面々が鎬を削る。
ただの伝記映画とは異なるセンセーションな構造も特長で、冒頭から畳みかけるような音圧とカラー/モノクロを織り交ぜた映像、オッペンハイマーの脳内イメージ(原子の世界)が続けざまに挿入され、観客を一気に引きずり込む。撮影はIMAX65ミリと65ミリ・ラージフォーマット・フィルムカメラを組み合わせ、特別に開発した65ミリカメラ用モノクロフィルムを用いた史上初となるIMAXモノクロ・アナログ撮影も行ったという。オッペンハイマーの光と闇の両面を見つめた人物描写も熟練の域に達しており、黒焦げになった死体やヌードなどショッキングな描写もみられる(日本公開時のレートはR15+)。
本作は第96回アカデミー賞の本命とされ、授賞式では作品賞、監督賞、主演男優賞、助演男優賞、撮影賞、編集賞、作曲賞の7冠を獲得。被爆国である日本で公開されるのか否か注目を集めていたが、ビターズ・エンドの配給により2024年3月29日より劇場公開。
『オッペンハイマー』
3月29日(金)より全国ロードショー
IMAX®劇場 全国50館 /Dolby Cinema®/35mmフィルム版 同時公開
配給:ビターズ・エンド ユニバーサル映画
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失敗知らずの「ヒット請負人」であると同時に、自身のクリエイティビティを曲げない「映像作家」でもあるノーラン監督。これまでの作品群からもわかるとおり、これだけの高次元で相反する2項を両立させている人物は、世界中を見渡しても極めてまれだ。
暗いニュースにあえぐこの世界を、映画の力でまばゆく照らす――。ノーラン監督に懸かる期待は、これまでとは比較にならないほど大きい。しかしそれを上回りそうな「確信」が、人々の中にあるのもまた、事実なのだ。
文: SYO
1987年生。東京学芸大学卒業後、映画雑誌編集プロダクション・映画情報サイト勤務を経て映画ライター/編集者に。インタビュー・レビュー・コラム・イベント出演・推薦コメント等、幅広く手がける。「CINEMORE」 「シネマカフェ」 「装苑」「FRIDAYデジタル」「CREA」「BRUTUS」等に寄稿。Twitter「syocinema」