『シモーヌ』は、単なる技術予測の映画ではない
公開当時、筆者はニコル監督に「実際にフルCG俳優による映画を作る気持ちはあるか」を聞いている。
ニコル:私は、下手な役者の演技よりも、うまいCGの方が感動を与えることもあると思います。しかし、それを作るCGアニメーターに、人を感動させるだけの演技力があることが条件となります。私がなぜ今回、アル・パチーノを雇ったかと言えば、自分の想像以上の演技を彼から引き出せるからです。自分が作ったヴァーチャル俳優だった場合は、私の想像の範囲でしか動かせません。またヴァーチャル俳優は、何人もの手を必要とします。本物の俳優なら、名優が一人いれば済む話ですから、必然性が無くなってしまいます。それから即興性は、プログラミングがとても難しいということも、忘れてはいけません。それは、役者の魂をプログラミングすることと同じだからです。
という回答だった。20年前には荒唐無稽に見えた物語が、いまや生成AIによって現実の俳優業界を揺るがし、ヴァーチャル・インフルエンサーが市場を動かす時代になっている。しかし、劇中のタランスキーがどれほど巧妙にシモーヌを操っても、彼女をスターに押し上げたのは結局のところ観客であり、“完璧な存在”を求める欲望こそが彼女を実在させた。
現実のAIキャラクターにも同じことが言える。技術が人間を置き換えるのではなく、観客の欲望が技術を呼び寄せる。だからこそ『シモーヌ』は、技術の未来ではなく、観客の未来を描いた映画だった。そして今、私たちはその未来のただ中にいる。
1980年より日本エフェクトセンターのオプチカル合成技師。1982年に日本初のCGプロダクションJCGLのディレクター。EXPO'90富士通パビリオンのIMAXドーム3D映像『ユニバース2~太陽の響~』のヘッドデザイナーなどを経て、フリーの映像クリエーター。NHKスペシャル『生命・40億年はるかな旅』(94)でエミー賞受賞。VFX、CG、3D映画、アートアニメ、展示映像などを専門とする映像ジャーナリストでもあり、映画雑誌、劇場パンフ、WEBなどに多数寄稿。プロ向け機関紙「映画テレビ技術」で長期連載中。東京藝大大学院アニメーション専攻、日本電子専門学校などで非常勤講師。主要著書として、「3D世紀 -驚異! 立体映画の100年と映像新世紀-」ボーンデジタル、「裸眼3Dグラフィクス」朝倉書店、「コンピュータ・グラフィックスの歴史 3DCGというイマジネーション」フィルムアート社
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