現実におけるAIで生成された人物
シモーヌが世間を熱狂させたように、現実でも生成AIによる架空の人物の話題は事欠かない。例えば、25年後半に話題となった「ティリー・ノーウッド」は、実在の俳優と区別がつかないリアリティの高さから、エミリー・ブラントやウーピー・ゴールドバーグなどの俳優や、労働組合(SAG-AFTRA)との間で、AIが俳優を代替する倫理的・職業的な議論を巻き起こした。
しかしこういったAIキャラクターは、CM業界では「撮影スケジュールや契約交渉のリスクがない」「スキャンダルを起こさない」などという意味で重宝されつつあり、まだ世の中の反発は大きいものの、徐々に浸透していくと思われる(https://www.youtube.com/watch?v=H-B5mB53bgc)。(*9)
実際、「リル・ミケーラ」 (https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%AA%E3%83%AB%E3%83%BB%E3%83%9F%E3%82%B1%E3%83%BC%E3%83%A9)は、16年にヴァーチャル・インフルエンサーとして登場し、さらに歌手やモデルとして、巨大なフォロワーを獲得し続けている。このように一度大衆の支持を得てしまえば、人々は抵抗なく受け入れていくだろう。
「リル・ミケーラ」挨拶動画
一方で、「生成AIが職を奪う」という心配も杞憂ではないだろうか。常に技術革新は“置き換え”への恐怖を伴うが、実際には仕事の幅を広げてきた。例えば、最初の『トロン』(82)が制作された時、ディズニー社内のベテランスタッフや、アカデミー賞の選考委員たちは、「アニメーターや視覚効果技術者の職が奪われる」という理由で、CGに激しく反発した(https://cinemore.jp/jp/erudition/1428/article_1430_p5.html)。しかし、それも今では完全に昔話になっており、結果として新しい職能を生み出した。
音楽に例えると、シンセサイザーやサンプラー、DTM (Desk Top Music)/DAW (Digital Audio Workstation)などが普及しても、アコースティック楽器やオーケストラ、民族楽器、合唱団などが無くならなかったように、技法が一つだけに限定されることはない。これは映像においても言えることで、CGが普及しても、手間のかかるストップモーション・アニメーションは無くなっていないし、デジタルシネマが普及しても、フィルム撮影にこだわる監督も英米では少なくない。
*9 国内の例では、テレビドラマ『どてらい男』(73~77)の欠損した回を、関西テレビ・博報堂・Google Cloudが共同事業として、動画生成AIのVeo 3を用いて復元作業を行っている。これは、台本、撮影当時に撮影されたスチル、権利処理済みの出演者の写真、視聴者から提供されたダイジェスト映像などから蘇らせるというものだ。